Research Highlights

変化に敏感な遺伝子

Nature Reviews Cancer

2003年6月1日

ファンコニ貧血(FANCと略す)‐BRCA1癌抑制タンパク質経路は、シスプラチンなどのDNA架橋剤によって引き起こされる損傷に応答して起こるDNA修復に必要である。卵巣癌患者には標準治療の一部としてシスプラチンが投与されるが、この薬剤に耐性を示すようになる患者がしばしば見られる。シスプラチン感受性とシスプラチン耐性の獲得の機構にかかわる分子は不明である。Taniguchiらは、この過程においてFANC-BRCA1経路が果たす役割を調べた。TaniguchiらがNature Medicine誌に報告したところによると、卵巣癌細胞系のシスプラチン耐性は、重要なFANC遺伝子の1つであるFANCF遺伝子のメチル化状況によって決まる。

種のFANCタンパク質のうちの5つ(FANCA、FANCC、FANCE、FANCF、FANCG)は、もう1 つのFANCD2タンパク質のモノユビキチン化(ユビキチン分子の付加)に必要な核複合体のサブユニットである。FANCD2タンパク質は、BRCA1タンパク質と相互作用してDNA修復に着手する。シスプラチンに高い感受性を示す2種類の卵巣癌細胞系は、モノユビキチン化されたFANCD2タンパク質を発現しない。ところが、Taniguchiらがこれらの細胞系でFANCFタンパク質を過剰に発現させたところ、FANCD2タンパク質のモノユビキチン化とこのタンパク質のDNA修復機能が回復した。FANCF以外のFANCタンパク質を過剰に発現させてもFANCD2タンパク質のユビキチン化と機能性の回復は見られなかった。FANCD2タンパク質のモノユビキチン化と機能を修正された細胞は、元の細胞系よりもシスプラチンに耐性を示すようになった。

スプラチン感受性の細胞のFANCF遺伝子は変異を起こしていなかったが、この遺伝子にはCpG島が含まれている。したがって、FANCF遺伝子はCpG島がメチル化されて不活性化されているのかもしれない。Taniguchiらがシスプラチン感受性の細胞を5‐アザ‐2′‐デオキシシチジンという脱メチル化試薬で処理したところ、 FANCFのmRNA量とタンパク質の発現量が増加し、FANCD2タンパク質のモノユビキチン化が部分的に回復した。メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応により、FANCF 遺伝子はシスプラチン感受性細胞系ではメチル化されているが、正常な卵巣細胞ではメチル化されていないことが確認された。

上の結果からわかるように、FANCF遺伝子のメチル化はシスプラチン感受性を調節しうるが、脱メチル化はシスプラチン耐性と相関があるのだろうか。シスプラチン感受性卵巣癌細胞系由来のシスプラチン耐性変異細胞は、少量のFANCFタンパク質を発現していた。実験的にFANCFタンパク質の過剰発現を導入してもこれらの変異細胞のシスプラチン耐性度はそれほど上昇しなかったが、CpG島の塩基配列を解析したところ、シスプラチン耐性変異細胞ではFANCF遺伝子が脱メチル化されていることがわかった。

aniguchiらは、卵巣癌の進行の初期にはFANCF遺伝子はメチル化によって不活性化されていて、この時期にシスプラチンにさらされると癌細胞が死滅するのではないかと述べている。ところが、一部の腫瘍細胞では、

ANCF遺伝子がその後に脱メチル化され、シスプラチン耐性細胞が急速に増殖するようになる。将来、FANCD2タンパク質のユビキチン化を標的にする阻害剤が開発されれば、FANCFタンパク質の影響が回避され、シスプラチンが効かなくなった患者の腫瘍を再びシスプラチン感受性の状態に戻すのに使えるかもしれない。

doi:10.1038/nrc1084

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