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スイッチ・コントロール

Nature Reviews Cancer

2003年6月1日

エンドスタチンのような血管新生阻害因子は、マウスでは腫瘍の増殖を阻害するが、実際に癌患者でこうした作用を起こさせるのは従来困難であった。 Bergersらは、腫瘍の脈管構造の構成が、腫瘍の成長の各段階で変化していくことを明らかにした。つまり、血管新生阻害因子を腫瘍発生のどの段階で使うかによって、その効果が変わるというのである。

急激に増殖している前癌状態の腫瘍は、血管新生のスイッチをオンにするさまざまな因子を生産して、本来なら静止状態にある腫瘍周辺の組織が血管新生を助けるように誘導する。Bergersらは、RIP1 Tag2系列のトランスジェニックマウスを使って、血管新生に関わるスイッチについての研究を行ってきた。この系列のマウスでは、膵臓B細胞の多段階発癌が見られる。この動物モデルを使うと、腫瘍発生のざまざまな段階に対する治療法の効果を調べることができる。

Bergersらは、以前の研究で、種々の血管新生阻害剤の発生段階特異的な効果について調べた。例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)受容体阻害剤であるSU5416は、血管新生に関わるスイッチがオンになるのを阻害し、前癌状態の腫瘍の成長を妨げるが、後期の血管が十分に成長した腫瘍(臨床試験の典型的な第III期患者で見られるものと類似)では、癌の退縮は起こらない。このことは、VEGFシグナル伝達系は、血管新生が起こる際と初期腫瘍の成長時には重要であるが、脈管構造がすでにしっかりできあがった大型の腫瘍の場合には重要でないことを示している。

The Journal of Clinical Investigationの5 月号で、Bergersらは、SU6668のようなもっと特異性の低い受容体阻害剤の効果について報告している。SU6668は、低分子のキナーゼ阻害剤で、PDGF受容体を介するシグナル伝達を主に阻害するが、VEGF受容体を介するものも阻害する。SU6668は、RIP1ITag2系列のマウスでの初期腫瘍の成長も遅くするが、後期の腫瘍の成長を阻害し、病状を安定化する効果の方が高かった。Bergersらは、SU6668で治療を行った腫瘍では、新生血管が少なく、また平滑筋の類縁の細胞で血管内皮を囲んで支える周皮細胞と血管との接着が少ないことを観察している。周皮細胞は PDGF受容体を発現する唯一の腫瘍細胞であることがわかっており、この性質のために抗血管新生療法の新しい標的となっている。

さらに、RIP1 Tag2系列のマウスで、VEGF阻害剤(SU5416)とPDGF阻害剤(SU6668あるいはグリベック)を併用して治療を行うと、発生のどういう時期にある膵島癌についても、どちらか片方の薬剤だけを使った場合より、高い効果がみられることがわかった。従って、このような2薬併用法は、癌患者で、腫瘍の脈管構造を作っている相互依存的な細胞成分を標的とする際に使用できる可能性がある。VEGF阻害剤は血管内皮細胞の機能の阻害に、そしてPDGF阻害剤の方は血管を支える周皮細胞の機能を阻害するというわけだ。

doi:10.1038/fake865

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