Research Highlights

三輪自動車

Nature Reviews Cancer

2003年5月1日

三輪自動車(オート三輪)を知っているだろうか。三輪自動車というと奇妙に聞こえるかもしれないが、一見して重要な部品が欠けているように見えても車は走る。驚い たことに、同じことが細胞にもあてはまる。鉄 治およびFrank McCormick がCancer Cell誌に報告しているところによれば、細胞はCDK2タンパク質がなくても細胞周期を続行することができる。

らは、結腸癌細胞を使ってU0126、PD 184352などの分裂促進因子活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MEK)阻害剤の作用機構を研究していたとき、これらの阻害剤がG1期停止を引き起こすことを発見した。G1期停止は、サイクリンD1およびD3、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4、CDK阻害因子のWAF1などの種々のタンパク質の発現量の減少が、最終的にCDK4‐サイクリンD複合体の活性を減少させることが原因で 起こった。

DK2‐サイクリンE複合体もG1期からS期への移行に必要だとされるが、細胞がG1期で停止するときCDK2タンパク質の量は変わらず安定している。しかし、CDK阻害タンパク質KIP1の結合がCDK4‐サイクリンD複合体からCDK2‐ サイクリンE複合体に移行することによってCDK2のキナーゼ活性が阻害されるかもしれない。鉄らはそれぞれのCDKを免疫沈降させて同時に沈降するタンパク質を調べ、CDK2とKIP1の結合がMEKの阻害に続いて増加し、この結合の増加がCDK2のキナーゼ活性の減少と合致することを示した。

は、このG1期停止にはCDK4とCDK2のどちらの阻害が重要なのだろうか。おもにCDK2を阻害するKIP1を過剰に発現させても結腸癌細胞では増殖停止が起こらないので、 CDK2の阻害は必ずしも必要でないと考えられる。このことは、2つの方法で確認された。第一に、優性阻害型CDK2は細胞周期の停止を引き起こさなかった。また、U0126に誘発された細胞周期の停止はKIP1アンチセンス処理によって回復しなかったが、この処理でCDK2活性は回復した。おもしろいことに、CDK4の特異的阻害剤は培養細胞の細胞周期の停止を誘発することができたので、細胞周期の停止にはCDK4の阻害で十分だと考えられる。

DK2の阻害がG1期停止に必要とされないだけでなく、細胞はCDK2がなくても喜んで増殖するらしい。結腸癌細胞、あるいはRB(網膜芽細胞腫)タンパク質陽性とRB陰性の子宮頸癌および骨肉腫細胞でアンチセンス法またはRNA干渉法によってCDK2タンパク質の量と活性を減少させても、増殖停止は誘発されなかった。CDK4阻害剤が存在していても増殖停止は誘発されなかったので、CDK4はRBタンパク質上のいくつかの重要な部位をリン酸化することができるという事実にもかかわらず、CDK2非存在下での増殖はCDK4を必要としない。RBタンパク質のこれらの部位は、ふつうはCDK2によってリン酸化され、G1期からS期への移行に重要である。

らの研究は、癌細胞の増殖におけるCDK2の必要性に疑問を投げかけただけでなく、CDK2阻害剤の開発にも重大な影響を与えることになる。CDK2阻害剤は、臨床試験 での評価が現在進行中である。鉄らの研究結果を考慮し、CDK2阻害剤の使用を再考すべきことは確かである。

doi:10.1038/nrc1083

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度