Research Highlights

癌を招く翻訳

Nature Reviews Cancer

2003年3月1日

腫瘍形成につながる要因を考えたときにふつう思いつくのは、癌遺伝子の活性化、アポトーシスの阻害、血管新生の誘導などの欠陥因子である。Davide Ruggeroら がSciences誌の1月10日号で発表した研究が明らかにしたところによると、リボソーム機能の調節解除が近いうちにこのリストに追加されるかもしれない。

uggeroらは、先天性角化不全症(DC)の研究を通してリボソームの調節の研究にかかわるようになった。DCはまれなX連鎖性劣性疾患で、DKC1遺伝子の点変異によって引き起こされる。DCには、早期老化、粘膜白斑症、間質性肺線維症および癌になりやすくなるという特徴がある。DKC1遺伝子はジスケリン(dyskerin)を 指令している。ジスケリンは、リボソームRNAの転写後修飾をになうプソイドウリジン合成酵素で、ウリジンをプソイドウリジンに変換する。ジスケリンはテロメラーゼ のhTRというRNA成分とも物理的に結合し、テロメアの長さを調節している。では、これらの機能のうちのどちらが、それとも両方ともが、癌になりやすい性質に関与しているのだろうか。

の問題を解決するため、Ruggeroらは、遺伝子産物の発現量が減少したDkc1 変異マウス(Dkc1m)を作出した。第1世代と第2世代 のDkc1mマウスは、生まれたときに明白な発達上の欠陥を少しも 示さなかったが、6か月齢までに骨髄機能不全の特徴が現れた。骨髄機能不全はヒトのDCの特徴のひとつである。約50%のDkc1mマウスには癌も発生し た。腫瘍は組織学的には種々の起源から生じたが、最もよく見られたのは肺と乳腺の 腫瘍だった。これらの表現型はDC患者の表現型に類似しており、 Dkc1mマウスはヒトのDC疾患の忠実なモデルだと考えられた。

ころで、Dkc1遺伝子に生じた欠損がどのようにして癌を引き起こすのだろうか。ヒトのDC細胞系ではテロメラーゼ活性の低下とテロメアの短縮が見られるので、 Dkc1mマウスで観察された癌になりやすい性質をもたらす候補は この欠損の可能性が最も高かった。しかし、定量的蛍光in situハイブリッド 形成法で解析した結果、第1世代と第2世代のDkc1mマウスの細胞 にはテロメアの長さの変化はまったく検出されなかった。実際 にDkc1mマウスでは、短縮されたテロメアは第4世代まで検出できなかった。

たがって、第1世代と第2世代のDkc1mマウスでの癌の発生には、テロメアの短縮は必要でない。Ruggeroらは、これらの初期世代のマウスの細胞を別の面から検討し、プソイドウリジンへの修飾とリボソームRNAのプロセシングが10 〜40%減少していることを発見した。これらの細胞はさらに、タンパク質の翻訳を阻害する各種薬剤に高い感受性を示したので、リボソーム機能が破壊されていると考えられた。リボソーム機能の低下が細胞の悪性形質転換を促進する機構は明らかではない。だがRuggeroらは、Dkc1m細胞では、細胞増殖を調節する諸因子の翻訳が変化しているのではないかと述べている。ジスケリンには、さらにまだ知られていない機能も存在するかもしれない。一方、テロメラーゼ活性の低下は、腫瘍発生のもっと後期の段階を進める一因になっているのかもしれない。

doi:10.1038/nrc999

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