Research Highlights

見せることが大事

Nature Reviews Cancer

2002年9月1日

入ってきた情報をそのまま抱え込み、適切な部門に伝えなかったら、その情報が応答 を誘発したりそれに基づく行動が起こる可能性はどれだけあるだろうか。ゼロだ。そ れと同じように、腫瘍に実際には腫瘍抗原がないわけではないのに、これらの抗原が 免疫系に効果的に提示されないならば、免疫応答の活性化が起こるはずはない。

he Lancetの7月27日号で、Laurence Zitvogelらが腫瘍患者の腹水から得た エキソソーム(exosome)が腫瘍抗原をもつことを新たに発見し、報告している。た とえ腫瘍それ自体には免疫原性が乏しくても、エキソソームが樹状細胞(DC)という 抗原提示細胞に作用して、細胞傷害性T細胞の活性化を引き起こし、腫瘍に対する免 疫応答を誘発することができる。

瘍から得られるエキソソームは、MHC(主要組織適合性抗原)クラスI分子、熱ショッ クタンパク質、テトラスパニン類、腫瘍抗原など抗原提示に関与する分子をもつ小胞 である。Zitvogelらは以前に、細胞培養で得られたエキソソームが免疫原性をもつこ とを示した。そして今回の研究で、腫瘍患者の腹水からもエキソソームを多量に単離 できることと、患者由来のエキソソームも免疫原性をもつことを示している。たとえ ば、Mart1陽性の黒色腫患者から得た腹水のエキソソームを取り込ませた単球由来DC は、たとえ腫瘍それ自体は免疫原性が乏しくても、これらの黒色腫患者から得られる 腫瘍特異的細胞傷害性T細胞の分化と拡張を誘導する。Zitvogelらは、悪性滲出(し んしゅつ)液が見られたほかの腫瘍の10人の患者の腹腔液から得た腹水のエキソソー ムを調べ、卵巣癌と乳癌でも類似の応答が起こることを示した。これらの癌由来のエ キソソームは、ERBB2(HER2/neuともいう)を発現していた。

瘍の初代細胞培養と腹水液のエキソソームを比較したところ、腹水液から採取する ほうが多量のエキソソームが得られることがわかった。また、腫瘍患者の腹水から得 たエキソソームのほうが容易にT細胞応答を刺激した。

はどうすればこのエキソソームがもつ情報をさらに利用できるのか。腫瘍患者の腹 水から得られるエキソソームは、養子免疫で移入するための大量の腫瘍特異的T細胞 の生成に利用できるかもしれないし、ワクチンの製造に使えるかもしれない。臨床で エキソソームを癌に対する免疫感作に適用できるかどうか、また、エキソソームが腫 瘍抗原の同定に役立つかどうかは、まだ解決されていない問題である。

doi:10.1038/nrc893

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