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境界線上

Nature Reviews Cancer

2002年7月1日

ヒトの癌細胞転移はおもに血液・リンパ系を経由して起こる。癌転移における血管新 生の役割については詳しく研究されているが、癌細胞が原発腫瘍からリンパ系を経由 して遠くの部位へと脱出する機構はあまりよくわかっていない。Science 6月7日 号でTimothy Paderaらはマウスの腫瘍転移に対するリンパ系の寄与について、腫瘍の 内部と境界部分のリンパ液の違いに焦点を合わせて論じている。Paderaらは皮膚黒色 腫と繊維肉腫を用いて、VEGFCを過剰発現する異種移植片を設計した。VEGFCは、リン パ管形成刺激に関連する血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリーの一員である。

aderaらはまた、肺癌患者の腫瘍についても調べた。従来の研究は、リンパ管新生の 研究に分子標識あるいは機能アッセイのどちらか一方で取り組む方法であったが、今 回の研究は両者を組み合わせたやり方で行われた。

験腫瘍におけるVEGFCの発現はリンパ節転移の発生に相関し、腫瘍内部と周囲のリ ンパ標識の染色を増加させたが、機能をもつリンパ管は腫瘍内部では見られなかっ た。しかし、これらVEGFC過剰発現腫瘍ではどれも腫瘍の境界領域(腫瘍の端から 100 μm未満)に、機能するリンパ管があった。腫瘍境界領域のリンパ管は膨張して おり、Paderaらはこのことが、これら腫瘍から生じたリンパ節転移の増加を説明する と提案し、それゆえ腫瘍境界領域の機能をもつリンパ液は、リンパ転移には十分であ ると結論づけている。

らの主張をさらに支持するものとして、Pedaraらは肺癌患者22人を研究した。患者 らは間質性高血圧で、腫瘍のリンパ機能が著しく減少しており、腫瘍内部のリンパ染 色はほとんどなかった。しかし、ほぼ半分の患者に局部的なリンパ節転移があり、腫 瘍の広がりには腫瘍境界領域のリンパ管で十分であるというマウスの知見を裏づけて いた。

れでは、この発見が癌患者の治療にどのように役立つだろうか。Pedaraらは、リン パ行性播種と戦うために、腫瘍の境界領域を手術や放射線などの局所治療法により積 極的に治療するべきだと提案している。さらに、リンパ管新生に果たすVEGFCの役割 は、リンパ転移と戦うための標的となりうる。

doi:10.1038/fake850

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