Research Highlights

一人でこなす大道芸人

Nature Reviews Cancer

2003年10月1日

MYCは歌も踊りもひとりでこなす癌遺伝子である。MYCは細胞増殖を誘導するだけでなく、浸潤や血管新生、ゲノム不安定性の一因である可能性を示す証拠がある。これらはみな腫瘍形成に密接に関係している。Dean Felsherらはこのゲノム不安定性に対する役割をさらに調査し、MYCがDNA二本鎖切断(DSB)の修復を妨げることをProceedings for the National Academy of Sciences誌に報告した。

MYCが過剰発現すると、遺伝子の増幅と融合が起こることが知られている。この増幅と融合は不完全なDSB修復に起因するようだ。この仮説を検証するため、発現調節可能なMYC遺伝子を含む正常なヒト包皮繊維芽細胞を作出し、MYC を過剰発現させたところ、DSB修復の標識であるγ-H2AX病巣数が増加した。しかし、MYCはDSBそのものを引き起こすのか、あるいはDSB修復を妨害するのか。

この点を調べるため、MYCの存在下、非存在下で細胞に放射線照射しDSBを誘発した。 誘発処理後はMYC発現の有無にかかわらず、γ-H2AX病巣数が増加したが、MYC非発現細胞ではγ-H2AX病巣は処理後1時間で消失し、MYC発現細胞では病巣は3時間まで残っていた。このことは、MYCがDSB生成には作用せず、その修復を妨害することを示す。

Felsherらは次に、1か所のDSB修復に及ぼすMYC発現の影響を調べた。DRAA8細胞系統は改変により緑色蛍光タンパク質遺伝子(GFP)を含んでいる。制限酵素I-Sce-IでDSBを1か所導入すると、その後の相同組換えによりGFP が活性化されるため、修復をGFP発現で監視できる。I-Sce-Iを導入するとGFP 陽性細胞数が増加したが、MYCの発現により背景値まで復元した。PCRに基づく検定法で、MYCによるDSB修復の抑制が、相同組換えと同様に、非相同末端結合と一本鎖対合を通じても起こることが確認された。もっとも、MYCのDNA修復に対する影響はDSB特異的らしく、紫外光誘導性傷害のヌクレオチド除去修復には影響がない。

だが、MYC発現が、正常細胞に自然発生したDSBの修復を妨げ、結果的にゲノムが不安定になる事象は起こりうるのか。同期したヒト正常包皮細胞の1回の細胞周期について、その調査がなされた。興味深いことに、

YC非発現の細胞では染 色体切断は非常にまれで、欠失・転座はまったくないのに比べ、MYC発現により染色体切断が12%、欠失が3%、転座が3%と高頻度で誘導される。

したがって、MYCはDSB修復を妨げてゲノム不安定性を誘導するように思われる。あとは、これが起こる正確な機構と、MYC誘導性腫瘍形成に対する寄与の決定が残されている。

doi:10.1038/nrc1195

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