Research Highlights

癌を熱する

Nature Reviews Cancer

2003年12月1日

熱凝固療法は、固形癌の外科的切除に代わる低侵襲性の方法として開発されている。この方法はレーザー、マイクロ波、あるいは超音波を利用し腫瘍に致死量の熱を加えるもので、浸透度の低さと、効果の非特異性という制限がある。Jennifer Westらは近赤外(NIR)光を照射すると熱を発生する金属ナノシェルを用いて、腫瘍をより効果的に光熱変換で破壊できる方法を明らかにした。

 ナノシェルは球形の絶縁体の芯を薄い金属シェル(殻)で覆った100 nm径の粒子である。光照射によってナノシェル表面の伝導性金属電子がまとまって振動し、熱を発生する。Westらはシリカの芯を金の薄い殻で覆ったナノシェルをつくり出した。この粒子はNIR光(820 nm)で活性化する特性をもつ。この波長なら、組織に吸収されずに透過する。

 NIR光は厚さ1 cm以上の組織を目につく損傷なしに貫通できることが、これまでの研究から証明済みである。Westらは、低出力ダイオードレーザーでヒト乳癌細胞に NIR光を照射し、細胞が生存可能なことを示した。しかし最初にナノシェルとともに培養した細胞は、NIR光を当てると膜透過性が失われ死ぬ。

 だが、生体内では何が起こるだろうか。マウスの後脚に生じた可移植性性器肉腫の間質にナノシェルを注射すると、わずか5 mmの深さに局所注射したにもかかわらず、ナノシェルは腫瘍全体のすみずみまで拡散することがわかった。NIR光を当てると、この腫瘍は皮膚表面下2.5 mmで平均温度が38℃上昇した。即時磁気共鳴温度画像法でモニターしたところ、この治療により不可逆的な熱損傷が腫瘍部位に限ってもたらされることがわかり、NIR照射領域の組織学的分析からは、凝固作用、細胞の縮小、核染色の喪失が明らかになった。対照的に、ナノシェルなしの腫瘍にNIR光を照射した後の温度上昇はわずか9℃で、この温度では不可逆的な組織損傷は起こらなかった。

 安全で効果的に治療できるナノシェルと光波長の組合せが発見されたので、この治療法の生存効果と腫瘍全体の退縮効果をさらに継続観察して調べられる。粒子表面の金に抗体やほかの分子を結合することもできることから、ナノシェルを注射により全身投与し腫瘍特異的標的療法も可能かもしれない。

doi:10.1038/nrc1248

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