Research Highlights

協力が解決のかぎ

Nature Reviews Cancer

2003年12月1日

RASおよびAKT癌遺伝子は膠芽細胞腫において発現が増強されることが 多く、これらが協調して膠細胞前駆体からの膠芽細胞腫形成を誘導することが実験で示されている。だがこれら2つの情報伝達経路は何を調節するのだろうか。

olecular Cell誌10 月号で、Eric Hollandらはこれらの癌遺伝子が転写に作用する以上に、癌発生に重要なタンパク質を指令する特異的なメッセンジャーRNAの翻訳を協調して高めることを明らかにしている。いことにKrasはAktのもつ4E-BP阻害能とS6RP活性化能を増す。この機構は今のところ不明だが、ヒト膠芽細胞腫細胞系列の同じ経路が活性化されており、このモデルの妥当性は確証されている。

ゆえに、これらの結果はRas、Aktの協同活性と翻訳の間にある因果関係の確証となる。 Ras、Aktは特異的mRNAの翻訳効率を差動的に変化させるよう作用するかもしれないという仮説を調べるため、RasまたはAktが阻害されたときの全mRNA量とポリソームmRNA量を比較した。Ras経路をMek阻害物質のU0126で2時間阻害、あるいはAkt経路をPI3K 阻害物質のLY294002とTOR阻害物質のラパマイシンで2時間阻害し12,488個の遺伝子アレイで測定したところ、全mRNA量にはごくわずかの影響しかなかった。発現レベルが3倍以上変化したものは、Ras経路を阻害した場合で12遺伝子、Akt経路を阻害した場合で4遺伝子だった。しかしこれらの遺伝子は癌関連経路に関係していたので、腫瘍発生の原因となるはずである。対照的に、RasかAktの一方が同じ時間阻害されたポリソーム画分では、何百種ものmRNAが失われていた。

AktとRasがポリソームmRNAの生成にどう作用するか偏りのないプロファイルを得るため、 Hollandらは次の7種の細胞型の全mRNAとポリソームmRNAを比較し、標準ポリソームmRNAを作成した。活性Ras+活性Akt、活性 Ras、活性Akt、活性Ras+活性Akt+薬理学的に阻害したRas、活性Ras+活性Akt+薬理学的に阻害したAkt、対照2種である。選択基準を厳密にし精確に解析したところ、AktとRas両方が活性な場合のポリソームには、さらに219種のmRNAが関係することが明らかになった。もっとゆるやかな選択基準では、324種のmRNAとなる。これらを合わせると426種のmRNAの「連合集団」となり、その多くは情報伝達経路の成分や腫瘍形成に重要なことが知られる生体機能をもつ成分をつくり出す。

最終的な問題は、ポリソームとの関連性が実際のタンパク質合成の変化を表すものかどうかにある。候補遺伝子の合成を測定するため代謝過程で放射能標識した全mRNA、ポリソームmRNAのアレイ解析のハイブリッド形成価を比較し、たいていの場合十分だとの確証が得られた。

したがって、RasとAktは協調して特異的mRNAの合成速度を変化させ、その発癌効果は転写よりも翻訳を通して広範に作用するようだ。

doi:10.1038/nrc1237

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