Research Highlights

scribbleなしの異常増殖

Nature Reviews Cancer

2003年12月1日

ショウジョウバエ(Drosophila)モデル系を癌研究の新たな分野を開くため に利用する機会はますます増えており、EMBO Journal誌の最新の報告も例外 ではない。Anthony BrumbyとHelena Richardsonは、細胞極性に関係する癌抑制因 子scribbleが失われると異常増殖表現型が誘導されることを示し、そのようなタンパ ク質の喪失がヒトの腫瘍形成の一因ともなりうるという。

FLP/FRT組換え系を利用し幼虫の目の発生原基にあるscribを取り除くと、細 胞は円柱形で単層の形態を失い、もっと丸みをおびた多層状になった。また、分化マー カーも失われ、増殖を誘導するサイクリンEの発現量が上がった。これはS期マーカー であるブロモデオキシウリジン標識の増加と相関し、増殖の高まりを確証した。 しかし、幼虫の発生が進むにつれscrib-組織はアポトーシスによっ て失われる。これはc-Junアミノ末端キナーゼ(Jnk)ストレス応答を介するらしく、 優性抑制型変異体を利用してJnk活性を阻害するとこのアポトーシスが防がれ、 scrib-クローンの大きさが増した。興味深いことにこれは細胞本 来の応答ではなく、周囲の野生型組織を除去すると大規模な異常増殖が起こったこと から、おそらくアポトーシスが防がれたせいだろう。

次に、ほかの発癌性変異が、scrib-表現型においてJnk経路活性 化のもたらす抑制効果に打ち勝てるかどうかを調べた。RasおよびNotchの活性型 はscrib-と協調して異常増殖(変異体組織が三次元的に増殖し分 化しない)を誘導した。それに対し、Wingless、Hedgehog、Decapentaplegic経路の 活性化ではいくぶん効果が異なる。分化障害が相当みられscrib- クローンは一般に大きさが増すものの、活性型RasやNotchでみられたのと同じ異常増 殖表現型は現さなかった。

では、異常増殖応答に重要なRasエフェクターはどれなのか。PI3Kの過剰発現でもそ のエフェクターでも活性型Rasの効果を再現できなかったが、活性型Raf対立 遺伝子はscrib-クローンの異常増殖を誘導できた。したがって分 裂促進因子活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路はこの協調を仲介するが、同様に 生存、成長、増殖、分化などの過程に影響を及ぼせる。驚いたことに、サイクリンE 発現による増殖の繰返しとカスパーゼ阻害物質p35の発現によるアポトーシス阻害で も、活性型Rasが引き起こす異常増殖表現型を再現できなかった。これ以外にも重要 なRasエフェクターがあるかもしれない。

ヒトのscrib相同体はまだ癌抑制因子とは示されていないが、この研究は細胞 極性を指令するタンパク質が腫瘍形成に重要かもしれず、さらに調査が必要だと強く 示すものである。

doi:10.1038/nrc1242

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