Research Highlights

干草の山からPIGを見つける

Nature Reviews Cancer

2004年4月1日

ヒトの癌、特に膀胱癌では、染色体領域20q11-13の増幅が頻繁にみられる。しかし、この座にある多くの遺伝子の中から、癌を引き起こす遺伝子を特定するのは困難であった。Guoらはついに、この領域に新しい腫瘍遺伝子(CDC91L1)を発見した。この遺伝子は、トランスアミダーゼ複合タンパク質PIG-Uをコードし、これがヒト膀胱癌の成因に一枚噛んでいるようである。

Guo らは、20q11-13座で起こっている生殖系列の転座t(5;20)(p15;q11)を伴った家族性尿路上皮癌の発端患者を分析するところから、研究に着手した。Guoらは、転座切断点を単離することによって、その近くに推定上の腫瘍遺伝子が見つかるのではと期待した。ショットガンクローニングにより、転座の影響を受けると思われる遺伝子4つを同定するに至った。

Guoらは、発端患者から採取した膀胱細胞について、この4つの遺伝子の発現レベルを解析し、健常者と比較した。そのうちのひとつ、CDC91L1が、膀胱癌患者の尿路上皮細胞で5倍過剰に発現していることがわかり、癌関連遺伝子の有力候補とされた。しかも、t(5;20)(p15;q11)切断点はCDC91L1のプロモーター領域にあるため、転座がそのアップレギュレーションを誘発する可能性がある。Guoらは、種々な膀胱癌細胞系および原発腫瘍サンプルをスクリーニングし、その30%超にCDC91L1の過剰発現がみられることを明らかにした。この発生率は、膀胱癌に関連していた他の変異に比べてはるかに高い。

しかし、正常細胞がCDC91L1を過剰に発現すると何が起こるのであろうか。Guoらは、この遺伝子を導入した細胞は、対照細胞と比べて増殖速度が速く、足場非依存性増殖能が高いことを明らかにした。この細胞はまた、ヌードマウスで腫瘍形成を生じた。したがってCDC91L1は確かに腫瘍遺伝子である。

PIG -Uが細胞形質転換にどのように寄与しているかを明らかにするには、さらに研究を重ねる必要がある。酵母では、PIG-Uはグリコシル-ホスファチジルイノシトール(GPI)トランスアミダーゼ複合体(膜関連タンパク質にGPIアンカーを付加する酵素)のサブユニットである。その他の種類の腫瘍では、別のトランスアミダーゼ遺伝子が増幅していることがわかっており、Guoらは、CDC91L1の過剰発現が、さまざまな種類の細胞において、ウロキナーゼ受容体uPARなど、いくつかのGPIアンカー型タンパク質の過剰産生につながっていることを確認している。過去の研究では、uPARのアップレギュレーションがJAK?STATシグナル伝達に関連することがわかっており、Guoらは、CDC91L1が過剰発現する細胞では、STATのリン酸化が増大することを確認した。以上のことから、この腫瘍遺伝子に照準を定めることが、この発癌シグナル伝達経路を断ち切る新しい方法ではないかと考えられる。

doi:10.1038/nrc1328

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