Research Highlights

オーロラを阻害する

Nature Reviews Cancer

2004年5月1日

哺乳類のオーロラキナーゼは1997年に発見されて以来、腫瘍形成に関与すると見なされてきた。癌に過剰発現することが多いため、遺伝子不安定性および腫瘍の進行を誘発すると考えられている。Karen Millerらは現在、オーロラキナーゼ活性の阻害因子が、癌細胞の分裂停止およびアポトーシスを引き起こすこと、新しい抗癌剤として将来性があることを報告している。

オーロラ-Cの機能は不明であるが、オーロラ-Aおよびオーロラ-Bはいずれも分裂時に作用する。オーロラ-Aには紡錘体形成および中心体成熟における役割があり、オーロラ-Bは細胞質分裂に不可欠な染色体パッセンジャータンパク質である。幸い、この3つのキナーゼはいずれも類似したATP結合部位をもつことから、Millerらはこれをターゲットに低分子阻害因子をデザインした。 MillerらはVX-680を合成し、これがオーロラキナーゼを選択的かつ強力に阻害することを示した。VX-680はこのほか、 FLT3キナーゼ (急性骨髄性白血病(AML)で変異することが多いため、抗癌治療のもうひとつの興味深いターゲットとされている)をも阻害し、実際に有益であると考えられる。

分裂におけるオーロラキナーゼの役割を裏付けるように、VX-680はさまざまな癌細胞系の細胞周期を停止させた。細胞は増殖をやめて停止し、中には四倍体DNAを含むものもあった。同調細胞では、有糸分裂サイクリンB1が蓄積したのちに減少したことから、細胞質分裂の非存在下で有糸分裂が起こっていることがわかった。その後、DNAが複製され、 > 4N DNAを含む細胞が現れた。

しかし、細胞周期停止はどのように生存能力に影響したのだろうか。この細胞は停止後にアポトーシスを来し、最も感受性の高かったのが白血病細胞、リンパ腫細胞および大腸癌細胞であった。このことから、VX-680は腫瘍退縮を引き起こしたと考えられる。Millerらは次に、標準治療に抵抗性を示すAML患者から原発腫瘍の検体を採取し、これに対する作用を調べた。重要なことに、VX- 680はFLT3が変異したものも含めてこれらの細胞によるコロニー形成を止め、阻害因子の役割が広がる可能性を示した。VX-680には、分裂を繰り返さない細胞に対する作用はなく(そのターゲットが有糸分裂時に作用することを考えると予想がつく)、下流にある推定上のターゲット、H3 ヒストンのリン酸化を妨ぐことができた。以上の結果から、VX-680の特異性が裏付けられる。

それでは、VX-680はin vivoで腫瘍増殖を抑制できるのだろうか。ヌードマウスのヒトAML異種移植片に、この阻害因子を腹腔内投与したところ、用量依存的に腫瘍量が98%減少した。VX-680はまた、膵癌および大腸癌の異種移植片モデルにおいても忍容性が良好な用量で効果を示し、静注により大腸癌の退縮が起こった。

以上のことから、オーロラキナーゼ阻害因子の抗癌剤としての将来性はきわめて高い。現在、臨床開発段階に向けて進んでおり、そこでも有用であってほしいとの期待を背負っている。

doi:10.1038/nrc1351

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