Research Highlights

ターゲットは外さない

Nature Reviews Cancer

2004年5月1日

抗血管新生促進因子は依然、癌治療において有望視されているが、このアプローチで課題になるのが、正常な血管に影響を及ぼすことなく、腫瘍血管系を破壊することである。The Journal of Clinical Investigation4月号でGreenbergerらは、増殖中の腫瘍血管系の内皮細胞を特異的に狙い撃ちする遺伝子治療法について詳述している。

腫瘍が酸素および栄養の運搬を腫瘍血管に依存しているという理由のみならず、遺伝子の安定性が高く、薬剤耐性を起こしにくい内皮細胞が血管系を構成しているという理由からも、腫瘍血管は治療ターゲットとしてふさわしい。しかし、どうやって、正常組織に影響を及ぼすことなく、腫瘍の血管を破壊するのか。 Greenbergerらは、 (Fas受容体と腫瘍壊死因子受容体1 (Tnfr1)の要素をもつ)キメラの細胞死受容体を血管内皮細胞で特異的に発現するアデノウィルスベクターを作製した。この受容体は、腫瘍の微小環境に豊富に存在するTnf- と結合したのち、Fas誘導アポトーシス経路を活性化するようデザインされている。しかも、この受容体をコードする遺伝子は、修飾された内皮細胞特異的プレプロエンドセリン-1 (PPE-1)プロモーターの転写コントロール下にあった。内皮細胞によって合成されるPPE-1は、血管収縮因子であり、平滑筋細胞の分裂促進因子でもある。PPE-1プロモーターには、腫瘍微小環境のような低酸素条件下でのみ遺伝子発現を増大させる低酸素応答配列が含まれる。Greenbergerらはさらに特異性を高めるため、その治療ベクターに含まれるこのプロモーターの内皮細胞調節配列のコピー数が3になるよう加工した。

このベクターは期待に応え、新生血管のみでの遺伝子発現およびTNF- が存在する培養内皮細胞のみでのアポトーシスを誘導した。しかし、それが腫瘍に作用したのだろうか。Greenbergerらがルイス肺癌のあるマウスの尾静脈にキメラのFas発現ベクターを注入したところ、腫瘍のある肺にのみ、キメラFas受容体をコードする遺伝子の転写が確認された。しかも、この処置により、肺転移の腫瘍重量が対照に比べて56%低下した。治療ベクターを投与したマウスの肺表面には腫瘍がなく、あったとしても、一部に小さく未発達な転移腫瘍が認められたのみであったが、対照マウスの肺はほぼ全体が腫瘍組織と化していた。Fasキメラベクターはこのほか、B16メラノーマがあるマウスの腫瘍増殖を遅らせるのにも効果があり、著者らはこの腫瘍が壊死によって死滅したことを示した。

組織学的分析を実施したところ、腫瘍血管が損傷を受け、その内皮層が消失していたことから、治療ベクターを投与したマウスの腫瘍血管系が特異的にターゲットとされていることが明らかになった。しかし、血管原性のない正常な組織には抗血管作用は認められず、導入遺伝子産物に対する体液性免疫応答は見られなかった。キメラ受容体が発現しても、マウス肝が損傷を受けなかったのは重要である。マウス肝の損傷は、Fasリガンドを投与すると肝細胞が破壊されることがすでにわかっていたために、懸念されていた。Greenbergerらは、受容体のキメラの特徴により、Tnf- が腫瘍微小環境内でFasシグナル伝達およびアポトーシスを開始させるにとどまったと考えている。

doi:10.1038/nrc1355

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