Research Highlights

特異的なアクセスマップを作成

Nature Reviews Cancer

2004年7月1日

充実性腫瘍については、抗体が効率的に狙うことができる特異的抗原を特定することが、癌研究における長年の目標であるが、抗原に対する抗体の特異性の点でも到達性の点でも、あまり上手くいってはいない。今号のNature誌のPhil Ohらは、減法的プロテオーム・マッピングにバイオインフォマティクスを組み合わせたまったく新しい方法を用いており、上の目標を達成する見込みが大幅に高くなっている。

Oh らは、血管を裏打ちする血管内皮細胞の細胞表面タンパク質が組織によって不均質であることを示す最近の証拠に基づき、腫瘍由来の内皮細胞には治療に有用で、その部位から考えて到達が容易な腫瘍特異的マーカーが発現しているのでは、との仮説をたてた。まずOhらは、ラットの種々組織に由来する内皮細胞形質膜タンパク質の細胞下分画を実施し、ゲル分析に供して、in vivoでの内皮細胞の不均質性を確認した。組織間のタンパク質発現の差は明白で、しかも重要なことに、この差は分画前の試料からは検出されず、内皮細胞形質膜の組織特異的タンパク質については、分画後の試料には差がよくみられた。

そこでOhらは、腫瘍特異的内皮細胞のマーカーを特定できるだろうかと考え、ラット内皮細胞形質膜の亜画分を正常肺と乳腺癌のある肺とで比較した。腫瘍内皮細胞では二次元ゲルに複数のタンパク質スポットが認められたが、正常肺の内皮細胞にはこれが認められなかった。さらにOhらは、イムノブロット法、質量分析法およびデータベース検索によりこれらのタンパク質を特定し、ここで得られた発現データを特殊な分析ソフトで分析した。発現したタンパク質を腫瘍によって誘発される新規血管タンパク質8種を含む15種類に分けたところ、仮説通り、15種類中12種類が、腫瘍試料の内皮の膜に多く発現していた。

しかし、どのタンパク質に治療的価値があるのだろうか。Ohらは、有力候補(腫瘍の内皮の膜にのみ発現する34 kDaのアネキシンA1タンパク質)を特定した。放射標識したアネキシンA1のモノクローナル抗体は、in vivoで腫瘍のあるラット肺に特異的に集まることがわかったほか、放射線治療に対して明確な反応(生存率の大幅な上昇)を示した。(肺癌を治療せずにおいた)対照群のラットが治療開始時点から2〜4日で死亡したことを考えれば、上の結果はすばらしく、放射標識した抗体を治療として1回注射すると、ただちに腫瘍負荷が大幅に低下することがわかる。

アネキシンA1は、樹立されたヒト腫瘍で何らかの役割を担っているのだろうか。Ohらは、ヒトの前立腺、肝臓、乳房および肺の腫瘍組織切片を検査し、アネキシンA1抗体は腫瘍切片の血管を特異的に標識するが、対照にはこれが認められないことを明らかにした。

以上のことから、特異的で到達可能な細胞を選択し、細胞表面に発現するタンパク質を充実させ、これと正常細胞背景との差を求めることによって、患者の腫瘍をイメージングし、治療ターゲットを特定することが可能となる。

doi:10.1038/nrc1399

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