Research Highlights

休眠させる

Nature Reviews Cancer

2004年11月1日

MYC癌遺伝子は、肝細胞癌において活性化していることが多い。Dean FelsherらはNatureへのレターで、条件的トランスジェニックマウスモデルを用いて肝細胞におけるMYCの発現を検討した方法を詳しく説明し、MYC不活化により腫瘍の退縮および休眠が引き起こされることを明らかにしている。

Felsher らは適切なモデルを確立するため、肝活性化タンパク質(LAP)プロモーターが、肝細胞におけるテトラサイクリントランス活性化タンパク質(tTA)の発現を促すマウスと、MYCがテトラサイクリン応答配列(tTAが結合している)の制御下にあるマウスとを交配し、LAP-tTA/tet-off-MYC マウスを作製した。導入遺伝子LapとMyc とをともに発現し、ドキシサイクリン(これもtTAを調節する)で処理していないマウスのみが、MYCを発現して肝細胞癌を生じた。

肝癌は通常、治療不応性であることから、Felsherらは、肝癌が定着したマウスのMYCを不活化しても、腫瘍退縮を引き起こす効果はないのではないかと考えた。しかし、そうではなく、瀕死の肝癌トランスジェニックマウス50匹をドキシサイクリンで処理してMYCを不活化させると、迅速かつ持続的な癌の退縮が見られた。

では、どのような機序によりこの退縮が引き起こされるのだろうか。ドキシサイクリンによる処置から2〜3日以内に、腫瘍細胞の高分裂指数および高増殖マーカーが消失し、アポトーシスの増大が認められた。さらに、未分化マーカーのフェトプロテインの発現が低下し、肝細胞マーカーの癌胎児性抗原の発現が増大した(この細胞は正常な肝細胞に分化した)。重症複合免疫不全(SCID)マウスの皮膚に腫瘍細胞を移植してMYCを不活化すると、腫瘍は迅速に退縮し、肝小葉に酷似した正常肝細胞が認められた。しかも、MYCの発現を回復させると腫瘍は再び増殖し、その特徴は組織学的にも遺伝子学的にも元の腫瘍と同一であった。このことからFelsherらは、腫瘍細胞は休眠したまま、新生物の特性を再び獲得する能力を維持していると結論づけている。

この仮説が真実であれば、MYC不活化後も残存する腫瘍細胞があるはずであることから、Felsherらは、ルシフェラーゼ活性による発光を測定することによって、SCIDマウスに移植した肝癌細胞を追跡できるよう、LAP- tTA/tet-off-MYCマウスとルシフェラーゼ遺伝子を導入したマウスとを交配した。腫瘍細胞では、MYC不活化から8カ月後もルシフェラーゼ活性が依然として検出できたが、正常肝細胞では、MYC不活化から5日後にしてその活性は検出できなかった。

MYCを不活化した肝癌を連続移植しても、再燃に至るのは稀であり、再燃癌にはL-MYCおよびN-MYCの代償的増加が認められた。Felsherらは、MYCに狙いを定めた不活化は、一部の肝癌に効果的な治療法ではないかとの結論に達している。

doi:10.1038/nrc1485

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