Research Highlights

超サプレッサー

Nature Reviews Cancer

2004年12月1日

腫瘍抑制因子の機能が消失するとどうなるかはよく知られているが、その逆はどうか。腫瘍抑制遺伝子が多く発現することはいいことなのだろうか。Manuel Serranoらは、Ink4a/Arfの追加コピーを発現する超トランスジェニックマウスを作製して、この問題に取り組んだ。

Serranoらはまず、Ink4a/Arfヌルマウスにおける導入遺伝子Ink4a/Arfの機能性を検査し、この導入遺伝子は発生時にも発癌ストレスに対する反応時にも生体内遺伝子と同様に調節されることを示した。そこでSerranoらは、マウス胚線維芽細胞(MEF)およびマウスを用いて、超Ink4a/Arf (生体内Ink4a/Arf野生型の遺伝子座に加えて、この導入遺伝子のコピーがひとつ存在する)の機能を調べた。

培養時、p53またはARFのいずれかの機能が消失し、細胞が老化しなくなると、通常その細胞は不死化する。25回継代したところ、野生型MEFは95%が不死化するのに対して、超Ink4a/Arf MEFの不死化はわずか40%であった。野生型MEFでは、不死化していくなかでp53またはARF機能のいずれかが消失したが、トランスジェニックMEFではp53機能のみが消失し、Arfの過剰コピーに保護作用があることがわかった。しかも、アデノウイルス癌遺伝子E1Aまたは発癌性HRAS-V12のいずれかによる形質転換に対する抵抗性は、超Ink4a/Arf MEFの方が大きかった。

超Ink4a/Arfマウスでも同じ結果が得られるのだろうか。種々発癌物質でこのマウスを処理したところ、対照の野生型同腹子と比較して腫瘍形成が少なかった。Serranoの超p53マウスと同じく、Ink4a/Arfの追加コピーが発現しても、加齢プロセスに影響がみられなかったのは重要である(調節を免れたp53が過剰発現するほかのトランスジェニックマウスは加齢が早まっている)。

Serrano らは、腫瘍抑制遺伝子の発現増大は腫瘍形成を抑制し、この遺伝子が生体内遺伝子と同じように調節され、発現する限り、その過剰発現によって障害が起きる可能性は低いとの結論に達している。また、最近の発表により、mRNA発現レベルおよびゲノム内可変領域の重複DNA配列でヒト対立遺伝子の変異性が明らかになっており、腫瘍抑制遺伝子が多く発現し、遺伝的な癌抵抗性をもつ個体がいるのではないかと考えられている。

doi:10.1038/nrc1510

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