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輸出ライセンス

Nature Reviews Cancer

2005年2月1日

癌細胞内で複製し、癌細胞のみを殺滅する能力をもつウイルスが、これまでにいくつか作製されてきたが、こうした腫瘍溶解性ウイルスの選択性の背後にある正確な分子機序が常に解明されてきたわけではない。O'Sheaらは、腫瘍溶解性アデノウィルスONYX-015について検討するなかで、腫瘍細胞の RNA輸出経路が変質していることを突き止め、このウイルスの選択性を左右する標的を明らかにした。これは、今まで特定されずにいたが、治療という点から興味が持たれていたものである。

細胞は、ウイルス感染に対処するための防御機構を進化させてきたと考えられ、腫瘍抑制因子p53は安定化および活性化して感染細胞の早期アポトーシスを誘発し、ウイルスの複製および拡散に歯止めをかける。このため、宿主のp53反応を覆す機序を進化させてきたウイルスは多い。ONYX-015は、さまざまな種類の癌のp53経路が変異していることを考えて、機能性p53経路が欠失した腫瘍細胞で特異的に複製するよう仕組まれたウイルスで、腫瘍抑制因子p53を分解の標的にするE1B-55Kウイルス遺伝子産物がない。ところがなんと、 ONYX-015は腫瘍細胞のp53の状態に関係なくそこで効果を発揮したことから、O'Sheaらはさらに検討を進めた。

O'Sheaらはまず、野性型p53経路をもつ正常な初代ヒト上皮細胞系での ONYX-015 感染に目を向けた。予想通り、ONYX-015は上手く複製されず、p53は核内で安定していた。ところが、この安定型のp53は活性化せず、アポトーシスを誘導することもなかったのである。これにより、E1B-55K以外のウイルス産物がp53の活性化を妨げていることがわかった。そこでO'Sheaらは、後期ウイルスタンパク質産生を可能にする宿主のタンパク質合成を停止させるなど、p53とは無関係なE1B-55Kの機能に着目した。O'Sheaらは、E1B-55Kの特異的機能を欠いた一連のアデノウィルスを用いることによって、ONYX-015には後期ウイルスRNA核外遊出に欠陥があり、そのために後期ウイルスタンパク質合成を誘発できないことを突き止めた。では、これがなぜ癌細胞では異なるのだろうか。ONYX-015という完全溶解性のウイルス複製を支える腫瘍細胞はみな、後期ウイルスRNA核外遊出の欠陥を補っており、正常細胞と腫瘍細胞とはこの点で大きく異なることが明らかになった。

以上のデータは、p53がどのように不活化されるかを理解するためのさらなる機会を提供しているだけでなく、後期ウイルスRNA核外遊出と成長制御および腫瘍形成に重要なRNA核外遊出との間に共通の特徴があるかどうかを検討する必要性をも示している。

doi:10.1038/nrc1555

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