Research Highlights

シグネチャを解読する

Nature Reviews Cancer

2005年2月1日

転移細胞が示す組織向性は、何が基本になっているのだろうか。Joan Massagueらは現在、乳癌細胞について、骨転移するものと他部位に転移するものとを識別する遺伝子発現シグネチャを報告している。

Massague らは以前、ヒト乳癌細胞系MDA-MB-231が予後不良な転移シグネチャを有することを明らかにしており、その後マウスを用いて、この細胞系にもうひとつ、骨転移を特異的に起こさせる遺伝子セットがあることを示し、その正当性を確認している。この研究では、免疫不全マウスの動脈循環に、MDA-MB- 231に由来する単一細胞の子孫(SCP)を導入している。骨転移発生の追跡は、SCPに三種融合レポーター遺伝子を形質導入し、生物発光画像法および蛍光顕微鏡法で転移細胞を探知して行った。主な腫瘍増殖部位は骨であったが、そこでのSCPの増殖度はさまざまで、SCPが骨転移遺伝子セットを発現するかどうかと相関していた。副腎でもSCPが若干増殖し、尾静脈注入を実施すると、肺で増殖するSCPもあった。ある部位でよく増殖するSCPが、別の部位でも同じく増殖するとは限らず、転移部位での増殖は、その部位で好ましい腫瘍-間質相互作用をもたらす遺伝子によって増大するという仮説と矛盾しなかった。

では、SCP転移活性のばらつきの原因となる遺伝子発現に差はあるのだろうか。 Massagueらは、SCP間の発現差が2倍以上ある遺伝子286個を突き止めた。遺伝子発現プロフィールを分類したところ、主な転移向性(骨または肺)が異なる、または転移性の弱いCSPは、個別のクラスターを形成することがわかった。このクラスター3種の類似性は、正常ヒト乳房上皮細胞系のプロフィールに対するよりも相互間で顕著に高かった。このデータは、明らかに異なる遺伝子発現パターンが転移向性の変動をもたらすという考えを裏付けるものである。

以上の所見とヒト腫瘍の挙動との関連性を検討するため、原発性乳癌63例を検査し、予後不良なシグネチャにも存在する骨転移遺伝子セットの遺伝子50個の発現を検討した。階層クラスター化では、骨に転移した腫瘍とそうでない腫瘍とを識別できなかった。しかし、転移したことがわかっている腫瘍に限定してこの分析を実施すると、50個の骨転移遺伝子セットにより、骨転移クラスターと肺転移クラスターとを識別できた。

確認試験を実施すれば、乳癌患者の効果的な管理に有益となる原発乳癌の骨転移向性の正確な予測因子にたどり着けるのではないかと思われる。

doi:10.1038/nrc1558

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