Research Highlights

マイクロマネージャー

Nature Reviews Cancer

2005年5月1日

マイクロRNA (miRNA)は現在、発生および細胞分化の重要な調節因子であると認識されている。このため、ヒト癌のmi-RNAが変異または異常発現しうることを示す証拠が出てきているのは、驚くことではない。Steven M. Johnsonらは現在、特定のmiRNAと、「あの」RAS発癌シグナル伝達経路との間に関わりがあることを示し、miRNAが腫瘍形成を調節する機序を示唆している。

動物のmiRNAは、その標的mRNAの3'非翻訳領域(UTR)にある相補的配列と結合し、翻訳を制御することによって、その調節作用を発揮すると言われている。最初に見つかったmiRNAのひとつが、蠕虫Caenorhabditis elegansのlet-7であり、現在では、この蠕虫類にlet-7類縁配列が4種類見つかっている。let-7は、上皮細胞の一種である皮下のseam cell(継目細胞)の運命を制御しているが、ほかのファミリーメンバーの機能はわかっていない。Johnsonらは、C. elegansゲノムに標的遺伝子となりうるものがあるかどうかを探索し、その遺伝子の3' UTRにlet-7 ファミリーのコンセンサス配列に対する相補的な部位を探した。その候補として最高得点を出したのが、ヒトRASのC. elegans相同体、let-60であった。

Johnsonらは、let-7およびlet-60が、逆数的にではあるが、いずれも皮下のseam cellに発現し、発生段階でlet-7 が多ければlet-60 が少なく、let-60 が多ければlet-7 が少ないことを突き止めた。さらに、let-60の3' UTRは、let-60の発現が通常は減少する同じ発生段階で、レポーター遺伝子を十分にダウンレギュレートする。注目すべきことに、let-7機能喪失変異体をもつ蠕虫では、レポーター遺伝子の発現が低下しない。上記いずれからも、let-60 mRNAが蠕虫のlet-7の機能標的であることがわかる。

そこでJohnsonらはヒトについて検討し、RAS遺伝子3種の3' UTRに、let-7相補的部位となりうるものをいくつか見つけた。HepG2 細胞にlet-7 miRNAを移入したところ、RAS の発現が 70%低下した。さらに、NRASおよびKRASの3' UTRは、内在性let-7を有する細胞(HeLa細胞)のルシフェラーゼレポーターの発現を抑制した。let-7のアンチセンス阻害因子を同時に移入したところ、この抑制は緩和された。

let-7のいくつかのヒト相同体は、癌では欠失している遺伝子領域にあることから、Johnsonらは、let-7 miRNAによる調節が失われるとRASの過剰発現が起こり、腫瘍形成に寄与するのではないか、との仮説を立て、患者21例から採取したさまざまな癌のlet-7レベルを分析した。肺癌のlet-7は、隣接する正常組織の約半分であり、ノーザン解析およびウエスタン解析によりlet-7 miRNAおよびRASタンパク質の発現は、逆に相関していることが明らかになった。しかし、RASタンパク質の量がNRAS mRNAの量を反映している様子はなく、ヒトRASタンパク質の発現が、翻訳の段階で大いに調節されていることがわかった。これは、miRNAが3' UTRと結合する制御機序と一致している。Johnsonらは、let-7が肺組織の腫瘍抑制因子として強く関わっているとの結論を導いている。

doi:10.1038/nrc1614

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