Research Highlights

小さいものは美しい

Nature Reviews Cancer

2005年6月1日

抗アポトーシスタンパク質BCL-XLおよびBCL2 は、過剰発現すると発癌、進行および治療抵抗性に寄与する。Rosenbergらは現在、核磁気共鳴法(NMR)および構造試験を用いて、定着腫瘍の退縮およびマウスモデルの生存率改善を引き起こすBCL-XLおよぴBCL2の低分子阻害因子を特定したと報告している。

BCL-XLおよびBCL2は疎水性結合溝をもち、BH3領域という ヘリックス領域を1つもつBCL2ファミリーの向アポトーシスタンパク質と会合する。抗アポトーシスBCL2ファミリーのメンバーは、向アポトーシスタンパク質BAXおよびBAKを活性化し、シトクロムc放出の引き金を引いてアポトーシスを開始させる「活性化」BH3タンパク質(BIDおよびBIMなど)を引き離すことによって機能する。「感作」BH3タンパク質(BADおよびBIKなど)の作用様式は異なり、抗アポトーシスBCL2ファミリーメンバーと結合し、これに活性化BH3タンパク質を引き離させないようにすることで作用している。

Rosenbergらは、BCL-XLの疎水性BH3結合溝と結合する低分子が、その抗アポトーシス機能を阻害するのではないかと考えている。Rosenbergらは、高性能NMRを用いて化学ライブラリをスクリーニングし、BCL- XLの疎水性BH3結合溝と高い親和性で結合しうる低分子の候補物質を特定した。そこでRosenbergらは、得られた候補分子を修飾してBCL2との結合を改善し、分子ABT-737を作製した。

Rosenbergらは、ABT-737が感作BH3タンパク質と同じように機能する(BIDを介するシトクロムc放出を阻害させず、活性化BH3タンパク質の切り離しを遮断する)ことを確認した。しかも、ABT-737は向アポトーシスタンパク質BAXおよびBAKを活性化しないことから、この阻害因子がアポトーシスの引き金を直接引くのではなく、その代わりに、向アポトーシスタンパク質を活性化させる作用を増強することがわかる。

Rosenbergらは、細胞系を用いてこの阻害因子を調べることによって、ABT -737が、エトポシド、ドキソルビシン、シスプラチン、パクリタキセルといったよく用いられる治療薬および放射線の抗腫瘍作用を増強することを突き止めた。このほか、ABT-737は本来、リンパ球悪性腫瘍および小細胞肺癌(SCLC)の細胞系に対する抗腫瘍活性を備えているものの、充実性腫瘍細胞系の多くに対する作用は、ごく弱いものに過ぎないことも明らかにされている。

最も頻度の高いB細胞腫瘍(濾胞性リンパ腫)は、t(14:18)(q32: q21)染色体転座によって生じ、BCL2が過剰発現する。ABT-737は、t(14:18)染色体転座をもついくつかの細胞系に対して毒性をもつ。 Rosenbergらはこのほか、ABT-737が、患者由来の濾胞性リンパ腫細胞および患者由来の慢性リンパ性白血病B細胞に対して、効果を発揮することをも示している。

さらに、ABT-737はin vivoで、異種移植して定着した SCLC腫瘍にアポトーシスを起こさせることによって、これを完全に退縮させた。このことから、低分子BCL2ファミリー阻害因子(特にABT-737) は、リンパ腫およびSCLCに対する単独の治療薬としても、さまざまな腫瘍に対する併用治療薬としても、有用であることが確認された。

doi:10.1038/nrc1636

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