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そんなに先を急がないで...

Nature Reviews Cancer

2005年7月1日

腫瘍反応性T細胞をin vitroで活性化および拡大してから患者の体内に戻す養子細胞移植療法(ACT)は、転移性充実性腫瘍に対する臨床反応をなんとか上手く誘導できる数少ない癌免疫療法のひとつである。ACTが特に魅力的なのは、特異的T細胞を、その機能的特性により選択した上で患者に移植できる点である。しかし、T細胞分化のどの段階が、in vivoでの腫瘍の治療奏効に関わっているかは十分に検討されておらず、現在のT細胞選択基準ではin vivoでの有効性が保証されない。

Gattinoni らは、CD8+ T細胞の機能を種々分化段階(ナイーブ、初期エフェクター、中期エフェクターおよびエフェクター)で分析し、これが腫瘍退縮をメディエートするT細胞の能力に影響を及ぼすかどうかを、マウスモデルを用いて明らかにしている。それによりGattinoniらは、高度に分化したエフェクターT細胞は、in vitroで最も効果的な抗腫瘍作用を備えているが、in vivoでの効果は、ようやく初期エフェクター段階に達したT細胞の100分の1であることを突き止めたのだ。実際、診療所で使用するT細胞の選択に現在用いられている特徴(インターフェロン 放出とin vitro細胞毒性)は、in vivoでの抗腫瘍有効性と負の相関関係にある。

マイクロアレイ分析を実施したところ、高分化T細胞ほどBID、BADおよびFASリガンドといった向アポトーシス分子をコードする遺伝子や、複製老化を引き起こす遺伝子の発現レベルが高かったことから、こうした細胞がin vivoであまり「フィット」しないことが明らかになった。しかも、移植したT細胞のin vivoでの増殖能は実際、in vitroでの抗腫瘍機能を漸次獲得するごとに低下する。

初期エフェクターT細胞を分析したところ、CD26Lマーカー(CD62Lhigh)を高レベルで発現し、外見は対になるCD62Llowと類似しているものの抗原接種後にすぐれた抗腫瘍効果を示す亜集団が特定された。CD62Lhigh細胞は優先的にリンパ節に戻り、このマーカーが移植されたT細胞に、接種の結果として腫瘍抗原を発現しているプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)を狙わせることが、分析から明らかになった。T細胞分化によりCD62L が消失すると、APCとの相互作用が損なわれ、T細胞のin vivoでの活性化および増殖が弱まることによって、抗腫瘍活性が抑制される。

以上のことから、リンパ節ホーミング分子の発現レベルが高い初期エフェクターT細胞が、ACTに用いるT細胞として最良のものということになる。しかし、臨床的に治療効果のある細胞数を得るのに必要なin vitroでのT細胞拡大の段階では、必ず分化およびこの重要な細胞マーカーの消失が引き起こされる。目下、T細胞増殖の誘導にはインターロイキン2 (IL-2)が用いられているが、IL-2は分化をも誘導する。しかし、Gattinoniらは、IL-15が分化と増殖とを引き離して大量のT細胞を産生することでCD62Lが保持されやすくなり、ACTで用いた場合の効果が著明に大きくなることを明らかにしている。

以上の所見は、臨床治療法としてACTをさらに開発するのにきわめて重要となる。しかもGattinoniらは、現在のT細胞選択基準を、分化度が低く効果の高いT細胞を選択するものに改める必要があると提案している。

doi:10.1038/nrc1656

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