Research Highlights

まったく動きが取れない

Nature Reviews Cancer

2005年7月1日

進行性腫瘍を栄養する血管の血管像は、正常組織にみとめられるものほどよく組織されていない。Sunyoung Leeらは、この理由が、マトリックスに繋がれているかどうかで作用が異なる血管内皮細胞増殖因子(VEGF)によって、部分的に説明できる可能性を示している。

VEGFはひとたび細胞から分泌されると、そのC末端にあるヘパリン結合領域または ECM結合領域を介して細胞外マトリックス(ECM)と結合し、パラクリン的に作用すると考えられている。VEGFは、ヘパリナーゼおよびプラスミンといった酵素によってマトリックスが分解される過程でECMから放出される。マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)もECM分解およびVEGF解放に関与してきたが、その機序は不明であった。Leeらはこのことから、MMPがプラスミンのように機能し、マトリックスタンパク質を分解することによって VEGFを放出するのか、それとも実際にはMMPがVEGFそのものを切断しているのかという問いを立てた。

Leeらは、マトリックス結合型のVEGFが、MMP 3、7、9および19によって効率的に切断されて、安定した可溶性の分解産物VEGF113となることを突き止めた。卵巣癌患者から採取した腹水を用いた抗体試験では、VEGF113がin vivoで存在することが確認された。さらに、マトリックス支援レーザー脱離飛行時間型質量分析を用いて、VEGF113が、MMPによってECM結合領域から解放されるVEGF受容体(VEGFR)結合領域をもつことを明らかにしている。

VEGF113 は野生型VEGF と同じく、VEGFRと相互作用して、そのリン酸化および活性化を誘導することができる。そこでLeeらは、VEGF113の生物学的機能を分析するため、野生型VEGF、VEGF113およびMMP切断不可型(VEGF( 108?118))をin vitroでの血管新生アッセイに供した。どの型のVEGFも血管新生を誘導することができたが、誘導された血管増殖のパターンは顕著に異なっていた。野生型VEGFが誘導した血管は、ほかの血管新生因子なしでVEGFが作用する腫瘍に通常認められるものと類似した蛇行性であった。しかし、VEGF113によって形成されたのは、きわめて幅広の漏出性血管であり(写真参照)、VEGF( 108?118)によって形成されたのは、薄く連続性の高い血管であった。

上記3種類のVEGFを発現するヒト癌細胞系をIn vivoで異種移植したところ、腫瘍増殖速度に差が認められた。VEGF113を発現する腫瘍はあまり増殖せずに色が薄いままであったが、VEGF( 108?118)を発現する腫瘍は、野生型VEGFを発現するものよりも増殖が速かった。上記タンパク質の特徴をさらに明らかにしたところ、腫瘍血管の無秩序なパターンは、VEGFの種々作用を反映したものではないかと考えられる。すなわち、MMPが活性な不連続部分に存在する可溶性VEGF (VEGF113)は内皮細胞の増殖を誘導し、そのために血管が拡張するが、ECM結合VEGFは、既存の血管から新しい血管が盛んに出芽したり分岐したりするのを誘導する。

以上の所見からは、血管新生時のVEGFの作用が複雑であることがよくわかり、腫瘍におけるMMPのアベイラビリティおよび作用が、腫瘍血管の不均一なパターンの説明に少しは役立つのではないかと思われる。ただし、VEGF113の腫瘍はあまり増殖しないため、VEGFの循環濃度が腫瘍進行と相関する可能性は低いという点は重要である。したがって、VEGF値は予後因子として適切ではないと思われる。

doi:10.1038/nrc1664

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