Research Highlights

代替経路

Nature Reviews Cancer

2005年9月1日

低酸素誘導因子1 (HIF1)は、低酸素に反応する腫瘍の重要な転写メディエータであり、治療標的として魅力的である。Yusuke MizukamiらはNature Medicineの9月号で、癌細胞が酸素不在下で生き延び、血管新生を誘導する機序がほかにもあることを報告している。

ヘテロ二量体タンパク質HIF1は、サブユニットおよびより成る転写因子で、低酸素条件下で活性化して、血管内皮増殖因子(VEGF)など、血管新生をメディエートする遺伝子をアップレギュレートする。Mizukamiらは、HIF1のsiRNAノックダウンによって大腸癌細胞のHIF1を阻害するだけで腫瘍血管新生が阻害されるかどうかを検討した。HIF1ノックダウン細胞をマウスに移植したところ、なんと、現れた腫瘍の血管は、依然としてよく分布していた。しかも、この大腸癌のVEGF発現は、野生型レベルのHIF1を発現する腫瘍の50%減でしかなかった。VEGFレベルは低くても新生血管が形成されていたということは、HIF1不在下で代償的にアップレギュレートされ、腫瘍の血管分布を維持する血管新生因子がほかにあるのだろうか。

Mizukamiらはこの疑問に答えるべく、低酸素状態の大腸癌細胞に関する遺伝子発現分析を実施した。特に目を引いたのは、HIF1 ノックダウン細胞では、向血管新生サイトカインのインターロイキン8 (IL-8)が2.5倍アップレギュレートされていたが、野生型レベルのHIF1を発現する細胞にはこれが認められなかったことである。さらに、膵癌、乳癌および肺癌の各細胞のHIF1をノックダウンしても、類似したIL-8の誘導が認められた。

転写因子NF-B (核因子B)はIL-8の転写調節因子としてよく知られていることから、Mizukamiらは、この過程にみるその役割を検討し、低酸素状態に反応して活性酸素種(ROS)が産生され、これがNF-Bを活性化して、IL-8のアップレギュレーションに至ることを明らかにした。この反応は、ROS阻害因子によって不活化することができた。さらに、Mizukamiらは、大腸癌での変異がよくみられるKRAS癌遺伝子もこの経路を開始させること、すなわちKRASをノックダウンすると、低酸素状態におけるNF-BおよびIL-8のプロモーター活性の誘導が抑制されることを明らかにした。

代償経路が活性化して腫瘍血管新生反応を温存できることから、HIF-1またはVEGFを阻害する戦略は、IL-8を同時に標的にした場合に最も効果的であると考えられる。

doi:10.1038/nrc1708

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