Research Highlights

系譜の存続

Nature Reviews Cancer

2005年9月1日

未熟な皮膚細胞が生存、増殖およびメラノサイト系列へ傾倒するかどうかは、転写因子MITFにかかっている。Levi Garrawayらは現在、MITFがメラノーマの生存、発生および進行にも必要であることを明らかにし、MITFが系譜を存続させる癌遺伝子であるとしている。

Garrawayらは、腫瘍細胞系のNCI60パネルにあるメラノーマ細胞8系列のうち、6系列の染色体3p上に遺伝子増幅領域があることを突き止め、MITFがこの増幅のターゲットであることを明らかにした。ヒト腫瘍を検査したところ、良性の母斑(ほくろ)にMITFの増幅はまったく認められなかったが、原発性メラノーマの10%および転移性メラノーマの21%にはこれが認められた。また、MITFの増幅により、転移性メラノーマ患者の5年生存率が低下した。

MITF は、腫瘍抑制因子INK4Aをはじめとする細胞周期阻害因子を活性化することによって、細胞増殖を抑制する。INK4Aは、おそらくメラノーマ進行早期に不活化されると考えられ、増幅したMITFをもつNCI60の細胞系では実際にINK4Aが不活化していた。上記細胞系にはこのほか、メラノサイトにある重要なシグナル伝達因子BRAFに活性化変異があった。GarrawayらはMITFの役割をさらに検討するべく、INK4A経路をはじめ、細胞周期阻害因子の経路が不活化されており、細胞培地に特定の因子を追加するかどうかがその存亡に関わるメラノサイトに、MITFおよび活性化BRAFまたはそのいずれかを導入した。BRAFが活性化するのみでは、ある程度の因子非依存的な増殖が見られたが、MITF およびBRAF がともに発現すると、それだけで因子非依存性となり、メラノサイトが形質転換を来した。また、ドミナントネガティブMITFを導入するか、短鎖ヘアピンRNAでMITF をノックダウンすると、NCI60のメラノーマ細胞系の増殖が阻害されるに至った。

以上のように、メラノーマのMITFには系譜を存続させる機能があるが、それは化学療法に対する患者の応答に影響を及ぼすのだろうか。Garrawayらは、NCI60の細胞系に関する薬理学データの教師あり分析を実施し、MITFが増幅している細胞系は、それがないものよりも化学療法薬に対する耐性が大きいことを明らかにした。ドミナントネガティブMITFをこの細胞系に導入したところ、細胞の抗癌剤感受性が増大した。

Garrawayらは、MITFは系譜を存続させる因子としてメラノーマ細胞になくてはならないものであり、適切な治療法を選択するためのマーカーとしても、治療標的としても有用ではないかとの結論を導いている。

doi:10.1038/nrc1698

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