Research Highlights

少しか、たくさんか

Nature Reviews Cancer

2005年12月1日

系譜特異的転写因子であるPU.1は、骨髄性細胞およびリンパ系細胞のいずれの発生にも不可欠で、白血病発生に関与する。転写因子のコード領域に癌を誘発する変異があることが数多く報告されているが、Frank Rosenbauerらは最新号で、PU.1発現および腫瘍抑制をコントロールするcis調節配列を切断することの作用について説明している。

マウスでは、PU.1が過剰発現すると赤白血病が生じ、PU.1が消失するとB細胞および骨髄性細胞の発生が阻害される。すなわち、さまざまな濃度の PU.1 が、さまざまな系譜の運命決定に重要な影響を及ぼすのである。この調節の一部をメディエートするのが、どの種にも保存され、PU.1をコードする遺伝子の遠位領域である上流調節配列(URE)である。

Rosenbauerらは、マウスでこのUREを切断し、PU.1発現レベルが変化すると、癌が生じるかどうかを検討した。このようなマウスのB細胞は PU.1発現レベルが低く、UREが通常、この細胞の転写エンハンサーとして作用するとの報告と一致していた。しかし、PU.1が発現しなくなると、さまざまなB細胞サブセットに対してさまざまな作用が認められた。「B2」というB細胞集団が消失し、「B1」という別の細胞集団が、その数を増したのである。実はこのB1細胞、ほとんどの慢性リンパ球性白血病(CLL)例の起源細胞であることがすでに明らかにされており、UREが欠失したマウスには、ヒト CLLと類似したB1リンパ増殖性症候群が発生した。

このUREの切断は、T細胞の発生にも影響を及ぼした。初期の胸腺細胞にみるPU.1のダウンレギュレーションは通常、T細胞の発生に必要である。しかし、変異マウスでは、この胸腺細胞に正常レベルを上回るPU.1が発現した。すなわち、前駆B細胞とは異なり、UREは、前駆胸腺細胞で転写抑制因子として機能する。その結果、UREが切断されたマウスには、中悪性度T細胞リンパ腫も発生する。

以上のように、UREは重要なPU.1濃度調節因子であり、この消失は、さまざまな種類の細胞のPU.1発現にさまざまな作用をもたらす。これはどのようにして起こるのだろうか。UREには、TCFファミリーのタンパク質( カテニンと結合すると活性化因子に転換する転写抑制因子複合体)に対するコンセンサス結合部位がある。そのため、UREは、WNTシグナル伝達の不在下ではPU.1発現の抑制因子として作用し、WNTシグナル伝達が有効であればPU.1濃度を増大させるものと思われる。URE、またはこのカスケード全体における他のポイントが途絶すると、前駆B細胞または前駆T細胞のPU.1濃度に狂いが生じ、白血病が発生する。

doi:10.1038/nrc1770

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