Research Highlights

転移を開始する

Nature Reviews Cancer

2006年1月1日

原発性の腫瘍が転移をどこに形成し、またある一定の腫瘍が特定臓器になぜ転移するかを決定するメカニズムについては不明である。Rosandra Kaplanらは、骨髄由来細胞がこのような部位選択の最初の決定因子のひとつであり、特定組織に遊走し、腫瘍細胞を引きつけ転移増殖を促す環境を確立することを、Natureに報告している。

 骨髄由来細胞は、形質転換、腫瘍細胞の遊走、腫瘍血管新生に寄与することがよく知られている。一部の骨髄造血幹細胞は血管内皮増殖因子受容体1 (VEGFR1)を発現し、腫瘍血管形成に関与する。Kaplanらは腫瘍進行におけるこれら細胞の役割を検討し、実際にこれらのVEGFR1+細胞は腫瘍細胞の到着に先立ち前転移部位(pre-metastatic site)にクラスターを形成することを発見した。

 in vivoでこれらの細胞をトラックし腫瘍進行をフォローするためにマウスモデルを用いてVEGFR1+細胞をマウス骨髄から枯渇させると、これらの前転移クラスターの形成が阻害され、腫瘍転移が予防されることを見出した。そうであれば、VEGFR1+骨髄細胞はどのようにして前転移部位(pre-metastatic site)を選択するのであろうか?著者らは、原発性腫瘍によって産生される因子がVEGFR1+骨髄由来細胞を誘導し、血流に入り特定臓器に動員されることを認めた。マウスに肺癌細胞または黒色腫細胞を移植した後、骨髄由来細胞が動員される前に、将来の転移ニッチの周辺にフィブロネクチンの発現が亢進しているのが観察された。マウスにおいて、これらの部位の線維芽細胞様間質細胞が原発腫瘍の存在に反応して増殖し、前転移部位(pre-metastatic site)でフィブロネクチンを沈着させる役割を果たしている可能性が観察された。前転移部位に局在したVEGFR1+造血幹細胞はインテグリンを発現し、これらの部位で産生されるフィブロネクチンとの結合を可能にさせた。さらに、フィブロネクチン-インテグリンの相互作用によって造血幹細胞が誘導され、マトリックス メタロプロテイナーゼ9(MMP-9)を発現し、これによって転移性腫瘍細胞の到達のための間質環境が整えられる。

 前転移部位(pre-metastatic site)でのVEGFR1+細胞は、ケモカイン受容体発現腫瘍細胞を前転移部位(pre-metastatic site)へひき付けるケモカイン産生にも寄与する。VEGFR1およびインテグリンに対する抗体を有する様々なマウスモデルにおいて、前転移クラスター形成とその後の転移が阻害された。

 この知見は、非腫瘍細胞集団が将来の転移部位を確定できるとする最初のエビデンスである。早期段階のがん患者の転移を予防するために、VEGFR1+細胞またはこのニッチのその他の特徴をターゲットとする手法を利用できるようである。

doi:10.1038/nrc1793

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