Research Highlights

強力なポテンシャル?

Nature Reviews Cancer

2006年1月1日

骨格筋萎縮(悪液質)は、よくみられる衰弱症候群であり、癌による死亡全体の1/3にはこれが寄与していると推定される。抗悪液質療法は効果を示さないことが多いが、腫瘍によるジストロフィン-糖タンパク質複合体(DGC)の変化が、癌悪液質の重要な初期事象であることを明らかにしたDenis Guttridgeらの最近の発表は、上記治療法の改善に役立つ可能性がある。

Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)などの筋萎縮障害は、DGC成分に変異を来たしていることが多い。DGCは、筋細胞の細胞骨格と細胞外マトリックス(ECM)とのきわめて重要な機械的結合をもたらすばかりでなく、シグナル伝達および膜の完全性にも関与している。

腫瘍を有する筋萎縮マウスモデルから悪液質を来たした筋組織を採取し、組織学的分析に供したところ、膜の形態に異常があり、膜が完全な状態にないことが判明した。DMDの状況と同じく、悪液質を来たした組織のジストロフィン値は低く、関連分子であるユートロフィンの値が増大していた。 DGC関連分子であるαおよびβジストログリカンも、高度にグリコシル化していた。しかも、悪液質を来たした筋組織のDGCは、その分子が変化したためか、細胞骨格-ECM軸から解離していた。悪液質腫瘍を有する別のマウスモデルのDGCにも、これと似た変化が認められており、DGCの変化が腫瘍による筋萎縮の特徴であることがわかる。

DGCの消失を誘導しても腫瘍による筋萎縮が増悪し、腫瘍を有するマウスには重度の萎縮作用が認められたが、ほかに異常のないマウスにはこれが認められなかった。さらに、悪液質腫瘍を有するマウスに筋特異的ジストロフィンが発現すると、悪液質表現型が救済された。これは、この症候群で DGCがきわめて重要な役割を担っていることをさらに裏付ける証拠となる。

筋特異的E3ユビキチンリガーゼであるMuRF1は、悪液質にみるプロテアソームを介するタンパク質分解に関与しており、DGCの変化が最初に検知されるのとほぼ同時にMuRF1が誘導されることがわかった。DGCの発現によって悪液質表現型が救済されていた筋肉では、MuRF1の発現も低下しており、これを総合すると、DGC機能不全がユビキチン-プロテアソーム系を調節しているのではないかと考えられる。

最後に、悪液質癌患者ではDGCが脱制御されることがわかった。胃食道癌患者27例のうち59%に脱制御されたDGCが認められた上、厳しいパラメータを用いて選択した悪液質患者の91%は、DGCの脱制御が顕著であった。とりわけ10例の死亡例では、全例にDGCの脱制御が認められた。

以上のように、DGCの脱制御は筋ジストロフィーのみならず癌の悪液質の根本原因でもあるため、この複合体を回復させることについては、抗悪液質療法になりうるものとして調べる必要がある。

doi:10.1038/nrc1789

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度