Research Highlights

延焼を止める

Nature Reviews Cancer

2006年6月1日

低酸素状態はこれまでにも、癌患者の転移および不良な予後の両方と相関関係にあった。Amato Giacciaらは現在、低酸素腫瘍細胞に多く発現する酵素、リシルオキシダーゼ(LOX)が、低酸素によって誘導される転移にきわめて重要であることを明らかにしている。

LOX酵素は、細胞外マトリックス(ECM)の形成に重要である。それはコラーゲンおよびエラスチンのリシン残基を酸化するため、その線維が安定化および強化する。Giacciaらは、このことと低酸素腫瘍細胞におけるLOX発現とを結びつけ、LOXがECMのリモデリングに関与して、転移を助長するのではないかと考えるに至った。

Giacciaらはまずヒト癌細胞系で、LOXの発現が転写因子である低酸素誘導因子1 (HIF1)によって調節されることを明らかにした。さらに、マウスモデルを用いてLOXが転移を助長する上で担う役割を確認している。LOXの短鎖ヘアピンRNA (shRNA)を用いてMDA231乳癌細胞系のLOX発現を抑えると、ヌードマウスの正所性腫瘍として細胞が増殖している場合には転移発生率が低下した。また、MDA231腫瘍を有し、特異的LOX阻害因子または抗LOX抗体で治療したマウスには転移が少ないことから、LOXの阻害に治療法としての可能性があることがわかる。

LOXは転移をどのように誘導するのだろうか。in vitroでLOXを阻害すると、いくつかの癌細胞系が低酸素によって誘導する浸潤が抑制された。LOX酵素は、細胞内でも細胞外でも機能できるが、浸潤の抑制は細胞外LOXを阻害した場合のみに限られ、LOXが発現する細胞のならし培地では浸潤が増大した。LOX shRNA MDA231細胞では、浸潤に必要な細胞移動も抑えられていた。では、細胞外LOXは、機械的には細胞の運動性および浸潤にどう影響するのだろうか。

細胞移動には、先端での仮足形成、インテグリンECM受容体ならびにアクチン細胞骨格およびECMのリモデリングを調節する下流シグナル伝達経路の活性化など、いくつかの過程が必要である。LOXの役割のひとつに、ECMでのコラーゲン線維形成の増大がある。Giacciaらは、β1インテグリンのリガンドであるコラーゲンが、フォーカルアドヒージョンキナーゼ(FAK)の活性化を通じて細胞運動性を増大させるのではないかと考えている。実際、LOX shRNA 細胞はリン酸化したFAKのレベルが低く、LOXを移入するとFAKのリン酸化が復活し、さらにはこれをβ1-インテグリン阻害抗体によって遮断することができた。特に低酸素条件下では、MDA231細胞の先端で細胞外LOXの免疫蛍光染色が観察されており、LOXがECMのリモデリングを通じて転移を助長することを示す追加証拠となっている。

Giacciaらはほかにも、LOXが転移を予防する治療標的であることをさらに裏付ける所見として、高レベルのLOX発現が、乳癌患者または頭頸部癌患者の生存率低下に関連することを明らかにしている。

doi:10.1038/nrc1914

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