Research Highlights

CYLDの新しい経路

Nature Reviews Cancer

2006年7月1日

ヒトの両CYLD 対立遺伝子が消失すると、美観を損なう良性の円柱腫という皮膚の腫瘍が発生する。Reinhard FasslerらはCyld-/-マウスの皮膚細胞を用いて、脱ユビキチン化酵素CYLDには、NFκB経路に対する既知の作用のほか、核因子κB (NFκB)コアクチベーターBCL3の核転座をコントロールする能力があることを明らかにしている。

Fasslerらは、自ら作製したCyld-/-マウスは野生型と比較して、DMBA (7,12-ジメチルベンズ[a]アントラセン)およびTPA (12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテート)による皮膚腫瘍が発生しやすいことを明らかにした。ブロモデオキシウリジンが取り込まれ、Ki67が発現していたことから、Cyld-/-腫瘍の増殖が野生型の腫瘍よりも亢進していることがわかったが、アポトーシス率に差は認められなかった。また、Cyld-/- 腫瘍ではサイクリンD1 (Ccnd1 によってコードされる)の発現が亢進していたが、サイクリンD1の発現亢進はTPAまたはUVB光で処理した単離初代Cyld-/-角化細胞にも認められた。

CYLDの消失とサイクリンD1の発現との間につながりはあるのだろうか。Fasslerらはレポーターアッセイにより、TPAまたはUVBが、Cyld-/-角質細胞のCcnd1プロモーターをNFκB依存性に活性化することを明らかにし、CYLDがこの経路の負の調節因子であることを示した。CYLDは、NFκB阻害因子IκBα を安定化するなどして、腫瘍壊死因子α (TNFα)によるNFκB p65/p50ヘテロ二量体の活性化阻害に関わってきた。しかし、TPAで処理してもp65/p50依存性の転写が増大しないことから、TPAは角質細胞で、IκBα非依存性にNFκB活性を誘発していることがわかった。

では、NFκBファミリーのどのメンバーが、サイクリンD1の発現を調節しているのだろうか。Cyld-/-および野生型の角質細胞に、Ccnd1プロモーターレポーター構造およびNFκBファミリーのさまざまなメンバーをトランスフェクションしたところ、p50またはp52のほかコアクチベーター BCL3が、CYLD不在下でプロモーターを活性化することがわかった。共免疫沈降分析では、CYLDがTPAに反応して角質細胞のBCL3と結合することが明らかになり、TPAまたはUVBでCyld-/-質細胞を処理すると、BCL3の核転座が亢進し、DMBA/TPAによるCyld-/-腫瘍およびヒト円柱腫が増大した。さらに、クロマチン免疫沈降法では、Cyld-/-角質細胞のTPA処理によって、BCL3およびp50またはp52がCcnd1プロモーターに動員されるが、p65は動員されないことが明らかになった。

CYLDの脱ユビキチン化活性は、BCL3の核蓄積を妨げるのに必要なのだろうか。TPA処理により、Cyld-/-角質細胞ではBCL3のポリユビキチン化が大幅に増大し、CYLDはリジン-63が結合したポリユビキチン鎖をBCL3からin vivoで除去した。この部位のユビキチン鎖は通常、ほかのタンパク質のドッキング部位となっている。触媒的に不活性なCYLDは、BCL3の核蓄積もCcnd1プロモーターの活性化も妨げることができなかった。以上のデータから、BCL3の核蓄積を妨げるには、CYLDによる脱ユビキチン化が必要であることがわかる。

以前のデータによると、ヒトの腎、肝および子宮頚の腫瘍ではCYLDの発現が少なく、またFasslerらは、ヒト基底細胞癌および扁平上皮癌でCYLD 発現が減少または消失していることをつき止めている。このため、何種類かの腫瘍では、Fasslerらが提案するCYLDを介したNFκBシグナル伝達の抑制機序が重要と思われる。

doi:10.1038/nrc1937

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