Research Highlights

エックスファクター

Nature Reviews Cancer

2006年4月1日

David LivingstonとShridar Ganesanらの最近の研究によると、X染色体異常は孤発性および家族性を問わず、(BRCA1陰性)基底様乳癌発生の一翼を担っている可能性がある。

BRCA1機能が消失すると、正常な不活性X染色体の維持が破綻する(BRCA1変異細胞系および癌はもはや正常な不活化X染色体のマーカーをもたない) ことを示す証拠がある。しかも、X不活性化マーカーの消失は、基底様癌(BLCs)の特徴であるホルモン療法が無効に終わりがちな乳癌で見つかっている。このことから、共筆頭著者であるAndrea RichardsonとZhigang Wangは、類似のX染色体異常が孤発性BLCに多いかどうかという問いを立てた。

孤発性BLC18例のX不活性化マーカーを高悪性度非基底様乳癌20例と比較する形で分析したところ、BLCの大半(18例中15例)で正常な不活化X染色体が消失していることが明らかになったが、BLC以外の20例のうち、この消失が起きていたのは2例のみであった。さらに、家族性BRCA1-/-乳癌4例でも、X不活性化マーカーが消失していた。驚くべきことに、検査した孤発性BLCは、ほぼ全例のBRCA1が野生型であり、機能性核局在タンパク質が発現していた。このため、BRCA1の消失では、こうした孤発性腫瘍にみる不活化X染色体異常を説明することができない。

孤発性BLCおよびBRCA1-/-例の特徴をさらに明らかにしたところ、こうした腫瘍には、サイレンシングされていないX染色体DNA量の増大につながるとみられるX染色体の変化があった。では、こうした腫瘍が生じる理由は、その遺伝子が不活化X 染色体上で正常にサイレンシングされているタンパク質の発現が増大することにあるのだろうか。RNA分析では、X染色体によってコードされるRNAのレベルは、全体的には増大しないことが判明した。しかし、遺伝子発現データからは、X染色体遺伝子の少数サブセットの過剰発現が明らかになり、さらに検討を重ねた結果、RichardsonとWangは、特定のX染色体遺伝子の発現増大に関する淘汰が、BLCに共通する特徴のようであるとの結論を導くに至った。

BLCは、従来の治療法が無効に終わることが多い急速進行性の乳癌である。機械論的に見れば、ヒトBLCに存在するX染色体異常にはまだわかっていないことが多いが、そうした成因機序を理解すれば、孤発性、家族性を問わず治療効果のあるBLCの新しい治療法が得られるのではないかと思われる。

doi:10.1038/nrc1873

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度