Research Highlights

完全カバー?

Nature Reviews Cancer

2006年3月1日

ヒトゲノムの完全配列があれば、転写因子に対する結合部位をすべて特定することができるだろうか。最近までは、これが論理的に実現不可能であるとされてきたが、Weiらは現在、ゲノム全体をスキャンして結合部位を調べる技術を開発し、腫瘍抑制因子でも転写因子でもあるp53の標的で、これまで知られていなかったものを少なくとも98個特定している。

クロマチン免疫沈降法(ChIP)は、転写因子が結合するDNA断片を抽出する手法である。これを実施したのちには、上記断片を同定する必要がある。ひとつのアプローチは、それをマイクロアレイにハイブリダイズするもので(ChIP-オン-チップ)、酵母では問題なく用いられてきたが、哺乳動物ゲノムは大きすぎることがわかっている。もうひとつのアプローチでは、断片の配列を決定することができるが、ここでも哺乳動物ゲノムは扱いにくいことがわかっており、1回のスクリーニングで検討できるのは染色体のごく一部でしかない。

Weiらは最近、ヒトゲノム全体のスクリーニングに十分効率的な新しい方法、paired-end ditag (PET)配列決定法を開発した。この方法では、沈降した断片をクローニングしたのち、いくつかのクローンの5’末端および3’末端を連結して効率的に配列決定する。続いて各末端対をゲノムにマッピングして、結合部位になりうるものを特定する。

Weiらは、癌において重要であり、その転写標的の多くがすでにわかっているp53を用いて、新しい方法を検証することにし、5フルオロウラシルで処理してp53の発現を活性化させた大腸癌細胞をスクリーニングした。発現データの比較によってp53の直接標的である遺伝子が122個特定されたが、うち98個は新規なものであった。アップレギュレートおよびダウンレギュレートされる遺伝子間で結合部位の位置が異なることが確認された上に、よく知られたp53標的遺伝子CDKN1Aのプロモーターに第二のp53結合部位が特定されたことも興味深い。

新たに特定されたp53標的のいくつかは、細胞運動に関与しているが、p53が転移の抑制に関わっていることを考えると、これは面白い。p53標的の臨床的意義をさらに吟味するため、Weiらは、一部にp53変異体および野生型を含む乳房腫瘍のサンプル251個を用いてその発現をみた。p53標的の発現は明らかに2つのタイプに分けられ、p53によってダウンレギュレートされる遺伝子の多くはp53変異腫瘍に高レベルで発現しており、逆もまた然りであった。興味深いバイオマーカー候補の中には、p53によって抑制されるものとして、ここで初めて特定された抗アポトーシスBCL2A1があった。この試験はそれ以上に、p53結合部位のコンセンサス配列の詳細がわかったという点で重要である。この配列を用いてこのゲノムをin silico でスクリーニングしたところ、p53標的になりうる遺伝子がさらに多く特定された。これは、潜在的なp53標的の完全セットではないかと思われるが、 ChIP-PETスクリーニングの結果は、実際に5フルオロウラシルで処理した大腸癌細胞のp53によって調節されている遺伝子である。ほかのサンプルを ChIP-PETに供すれば、完全セットと特異的セットとがどう関わっているがわかる。このため、ChIP-PETは癌ゲノミクスおよび一般的なゲノム生物学のいずれにおいても重要な成果であると考えられる。

doi:10.1038/nrc1823

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