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積み荷で決まるファゴソームの運命

Nature Reviews Immunology

2004年7月1日

マクロファージなどの先天性免疫系に属する細胞による病原微生物の食作用(ファゴサイトーシス)は通常、炎症応答を引き起こすが、組織の再構築の際に見られるアポトーシスを起こした細胞をマクロファージが取り込む際には一般に炎症は起こらない。最近Science誌に掲載された論文は、食作用経路が働いた際の結果がこのように異なるのは、Toll様受容体(TLR)シグナル伝達が細菌によっては活性化されるが、アポトーシス細胞では活性化されないためであることを明らかにしている。

マクロファージによる細菌の取り込みが起こると、ファゴソームは迅速に(30分以内に)リソソームと融合してファゴリソソームが形成され、細菌はその中で分解される。著者らは、このファゴソームの成熟経路の調節におけるTLRシグナル伝達の役割を解明するために、蛍光標識した細菌をそれぞれ野生型マクロファージ、TLR2とTLR4を欠くマクロファージ、あるいはTLRシグナル伝達のアダプタータンパク質として重要なMyD88を欠くマクロファージに取り込ませて観察を行った。TLRあるいはMyD88が無い場合、細菌(大腸菌、黄色ブドウ球菌あるいはネズミチフス菌)の取り込みは遅れ、分解の効率も低下したが、それはリソソームとファゴソームの融合の効率が悪いためだった。これに対して、アポトーシスを起こした細胞の食作用による取り込みは、TLRあるいはMyD88が無くても影響を受けなかった。しかし、野生型マクロファージの食作用によるアポトーシス細胞取り込みの速度などは、細菌の取り込みに比べると遅くて、リソソームとの融合は1.5から2時間後にならないと起こらなかった。実際、アポトーシス細胞の食作用による取り込みは、TLRシグナル伝達を欠く細胞での細菌の取り込み速度に近かった。そこで、著者らはファゴソームの成熟速度は2通りあるのではないかと考えた。つまり、構成的に成熟が進む場合の速度と、もっと速く成熟が進む誘導性の速度で、後者がTLRシグナル伝達によって引き起こされるのだろうというのである。

著者らはさらに、ファゴソームの成熟速度が、特定の積み荷が持つTLRシグナル伝達を引き起こす能力に依存して変わることを明らかにした。1個のマクロファージでは、細菌とアポトーシス細胞は別々のファゴソーム中に取り込まれる。マクロファージ中での、アポトーシス細胞を含んでいるファゴソームの成熟は、そのマクロファージが細菌を含むファゴソームを持っている場合、あるいはTLR4のリガンドであるリポ多糖で刺激されたマクロファージである場合にも速くなることはない。つまり、ファゴソーム成熟の速度が誘導性の速いものになるかどうかは、ファゴソームによって自律的に決められる。

最後に、特異的に働く阻害剤を用いて、積み荷の細菌によって引き起こされる加速されたファゴソーム成熟には、TLRの下流で活性化されるp38マイトジェン活性化プロテインキナーゼが必要であることが明らかにされた。著者らは、TLR-MyD88-p38シグナル伝達経路は、ファゴリソソームの融合とその後の先天性免疫系と適応免疫系による識別から逃れ、細胞内にある細菌の一部によって破壊されるかもしれないと考えている。

doi:10.1038/fake612

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