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大きさが問題

Nature Reviews Immunology

2004年5月1日

マスト細胞は、「量より質」というおなじみの言い回しを耳にしたことがないのかもしれない。Blood誌に掲載された新しい研究によれば、マスト細胞の応答は、刺激の種類にはよらず、刺激の大きさで決まるという。マスト細胞では、出会ったIgEの量、IgEとの接触時間に応じて高親和性IgE受容体(FcεRI)の架橋が起こり、マスト細胞の脱顆粒が誘導され、または生存が促進される。
多価抗原に結合したIgE[IgE(+Ag)]がマスト細胞表面のFcεRIを架橋すると、脱顆粒が起こって、アレルギーにかかわるヒスタミンなどのメディエーターが放出される。しかし、抗原と結合していないIgE[IgE(-Ag)]では、脱顆粒が起こらずに細胞の生存が促進されることがわかっている。脱顆粒と生存応答はどちらもFcεRIの同じγサブユニット(FcRγ)を介した情報伝達を基盤として起こるので、Saitoたちは、異なった応答を引き起こすのに情報伝達の強度がどうかかわっているのように重要かを調べることにした。
マウスのFcRγの細胞質ドメインをマウスCD8αの細胞外ドメイン、膜貫通ドメインとつないだキメラ分子をコードする遺伝子を構築し、これをFcRγをもたないマウスの骨髄由来のマスト細胞(BMMC)に導入した。こうすれば、FcRγを介した情報伝達の強度を、さまざまな濃度のCD8特異的抗体を使うことによって変えることができる。脱顆粒には高濃度の抗体が必要だったが、低濃度、高濃度どちらのCD8特異的抗体による刺激でも、細胞の生存率は上昇した。
生存を促す場合の方が脱顆粒の場合に比べて情報伝達の閾値が低いことを確かめるため、Saitoたちは、受容体の結合価の影響についても調べた。CD8αは通常、細胞外ドメイン間に形成されるジスルフィド結合によって二量体となるので、このキメラCD8α-FcRγは、ホモ二量体として存在する。CD8αの必須システイン残基を変異させて二量体が形成できないようにすると、マスト細胞はこの一価受容体を介した情報伝達でも、CD8特異的抗体の投与に対して二量体の場合と同等の生存応答を示したが、脱顆粒応答の方は特異的抗体を高濃度で投与した場合でも起こらなかった【最後の文、わかりやすいように意訳しました】。
別種の細胞では、細胞外シグナル制御キナーゼ(Erk)の活性化が細胞の生存を促すことが知られており、今回の系でもCD8特異的抗体は、高濃度、低濃度両方でErk活性化を引き起こした。また、Erkを直接活性化する活性型のキナーゼMekをBMMCに導入すると、細胞の生存度が上昇し、マスト細胞でも細胞の生存とErk活性化との関連が確認された。
しかし、今回の人為的な系では脱顆粒と細胞の生存率上昇が同時に起こるのに対し、野生型マスト細胞では、IgE(-Ag)が細胞の生存を促進する一方、IgE(+Ag)は細胞が生存しなくても脱顆粒を引き起こす。これまでの研究で、IgE(-Ag)はIgE(+Ag)よりも長期間Erkを活性化することが明らかになっており、著者たちは細胞の生存にはErk活性の持続が必要なのだろうと見ている。Cd8CD8特異的抗体を別の抗体で架橋したときには(IgEが多価抗原によって架橋された状態を模倣している)、受容体の内部移行のために、最初のErk活性化が速やかに減衰し、CD8特異的抗体だけで処理した細胞に比べ、生存率が明らかに低下した。IgE(+固定化Ag)はFcεRIの内部移行を引き起こさないが、これで処理したマスト細胞は、脱顆粒が起こり、生存期間も長くなった。
このようにFcRγを介したシグナルは、脱顆粒と細胞の生存を、それぞれシグナル強度と持続時間に応じて促進する。

doi:10.1038/fake610

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