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おせっかいな隣人たち

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2005年10月1日

粘膜表面には、込み合った生息環境で栄養を求めて互いに競合する多様な一般的細菌が存在する。今回、PLoS Pathogensに掲載されたJeffrey Weiserらの記事では、細菌が相手の裏をかく巧妙な戦略を用いることを明らかにしている。これらの細菌は宿主の免疫応答を巧みに操作することで、周囲の細菌に対して働きかけている。

著者らは、通常ヒトの鼻咽頭に生息する2種類の細菌、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)およびインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)間の競合的相互作用についてマウスモデルを用いて研究した。実験室での培養において互いに競合させると、肺炎連鎖球菌は殺菌性物質を集中的に放ち、インフルエンザ菌を素早く死に至らしめる。しかし、両病原体をマウスの鼻咽頭に同時に導入すると、その結果は全く異なる。肺炎連鎖球菌はマウス上気道から迅速に排除されるのに対し、インフルエンザ菌は残っていた。重要な点は、両細菌が同時に棲みついた動物の気道には好中球が充満していることである。好中球は生来の免疫応答の鍵となる炎症細胞である。同時にコロニーを形成したマウスから好中球を枯渇させると、インフルエンザ菌が生き残る優位性が排除されたことより、宿主の生来の免疫応答がこの微生物の競合における戦略の鍵をにぎることが示唆される。

しかしながら、この競合での成功を決定するのは、インフルエンザ菌の走化性作用だけではない。ex vivoアッセイより、インフルエンザ菌の成分が好中球の殺菌活性を効率的に活性化することを示した。肺炎連鎖球菌の成分にはそのような作用はない。さらに、インフルエンザ菌によって感作された好中球は、インフルエンザ菌自体に対しては不利に働かないことから、著者らは、片方の細菌種からの産物に対する炎症細胞の選択的応答が、相手の細菌を打ち負かすメカニズムをもたらすことを主張している。

まだ証明されてはいないが、共存する細菌の別の組み合わせも、このようにして競合しているのかもしれない。例えば、肺炎球菌ワクチンで免疫したこどもでは、肺炎球菌保有率は低いが、鼻に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が存在してブドウ球菌の耳への感染が発生しやすいことが最近明らかにされた。 

これらの結果は、狭域型抗生物質およびワクチンの使用などにより粘膜ミクロフローラの微妙なバランスが混乱すると、宿主に対して不都合な結果を招くことにありうることを示している。わたしたちは、微生物集団が生体宿主の中でどのような相互作用をするのかを理解しなければならない。

doi:10.1038/fake585

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