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碇を離す

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2005年8月1日

1個の細胞あるいは一団の細胞が移動するには、基底膜との結合を解消しなくてはならない。MedioniとNoselliは、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)でこの作業がどのようにして行われるのかを、卵形成の際に卵室の前部から後部へと移動する極細胞を使って調べた。このような細胞は巧みなやり方で、細胞を基底膜につなぎとめる「碇」を改造していることがわかった。この方法では、基底膜の成分が細胞底部から頂端部表面へと運ばれ、そこで放出されるのである。

2個の前極細胞は6個のボーダー細胞に伴われてボーダー細胞クラスターとなって卵母細胞の方へ移動する。MedioniとNoselliはこの移動が起こる前、これらの極細胞がまだ中央の生殖系列細胞を取り囲む単層上皮の一部である時に何が起こるのか調べた。そして、緑色蛍光タンパク質(GFP)とタイプIVコラーゲンα2鎖などの基底膜成分の融合体が、単層上皮細胞の基底膜だけでなく、前極細胞の頂端部表面を覆う離れたキャップ中にも存在することが明らかになった。前極細胞の分化を停止させると、この頂端部キャップの形成が妨げられたが、前極細胞を異所的に生成させると、キャップもやはりそこで形成された。

三次元画像法により、キャップは極細胞を非対称的に覆っていることがわかった。極細胞が丸くなりはじめ、卵室全体を裏打ちしている基底膜から離れるまでは頂端部キャップが存在したが、ボーダー細胞クラスターとなって移動を開始する際にはキャップが無くなっていた。ボーダー細胞は移動に際しては細胞間接着を作り直し、基底膜から分離するかあるいは基底膜を分解しなくてはならず、卵母細胞に到着した後にならないと元の構造に戻らなかったが、おもしろいことに極細胞は極性を完全に保ったままで、膜からの剥離と移動の間にも基底膜はまったくそのままであった。

著者らは次に、頂端部キャップ中にある基底膜タンパク質と、本来の基底膜中のタンパク質のどちらもが細胞自律的に生産されたのではないことを明らかにした。つまり、頂端部キャップは極細胞の外部に起源をもつと考えられる。ボーダー細胞中のショウジョウバエDrab5とShibireを阻害して細胞内輸送を停止させた実験から、これらのタンパク質がボーダー細胞の移動に必要であることがわかった。しかし、優性ネガティブ型のDrab5だけが頂端部キャップの形成を阻害し、優性ネガティブ型のShibireでは阻害が起こらなかった。つまり、Drab5依存性のトランスサイトーシスが頂端部キャップ形成を調節しているらしい。

では、頂端部から基底膜成分を除くこととボーダー細胞クラスターの移動とはどのようにして協調しているのだろう。ボーダー細胞は極細胞の頂端部に移ってきた基底膜の状態を調節できるのだろうか。極細胞は、近傍の細胞群中のJAK(Janus kinase)-STAT(signal transducer and activator of transcription)経路をUnpairedの分泌によって活性化し、Unpairedは隣接する細胞群を外側ボーダー細胞になるように誘導する。Unpairedの受容体であるDomeless(Dome)の機能を阻害してやるとボーダー細胞の形成が止まり、その結果として極細胞の移動も起こらなくなった。そして注目すべきことに、頂端部キャップが極細胞から消失しなかったのである。

したがって、極細胞の外側にあるボーダー細胞は頂端部キャップを除くのに必要であり、キャップが除かれるとボーダー細胞クラスターが移動できるようになるのである(図参照)。これは、成熟したクラスターだけが移動開始できるようにする品質管理機構の1つなのだろう。

doi:10.1038/fake582

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