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分枝とフィブロネクチン

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2003年8月1日

発生の際には驚異的な現象が多々見られるが、その1つが分枝構造形態が形成される過程である。唾液腺や腎臓のような多くの器官の特徴である、上皮が枝分かれした複雑な三次元構造は、クレフト(裂け目)と芽状突起の形成が繰り返し起こることで生じるのだが、この過程の背後で働いている機構については、まだわかっていない。Ken Yamadaらは、細胞外マトリクス(ECM)に含まれるタンパク質であるフィブロネクチンの、上皮の分枝における重要な役割について報告している。
ECMの成分が唾液腺の分枝に必要なことはすでにわかっているが、著者らは、分枝に影響を与えそうな、局所的に合成される調節タンパク質を同定しようと試みた。III型コラーゲンはクレフトに集積する。フィブロネクチンはIII型コラーゲンの形成を調節できるので、Yamadaらは局所的なフィブロネクチン産生が分枝形態形成に重要なのではないかと考えた。そして、唾液腺でのフィブロネクチン・メッセンジャーRNAの発現のちがいを調べたのである。定量逆転写PCR法により、フィブロネクチンのmRNAは、上皮のクレフト部分の細胞では、芽状突起部分の細胞のほぼ16倍という高い濃度で発現していた。もっと詳しく調べたところ、形成初期のクレフトに隣接する細胞はフィブロネクチンmRNAを発現しており、分枝上皮のクレフトでは高濃度のフィブロネクチン原繊維が見られた。さらに、細胞と細胞を接着する分子であるE-カドヘリンの濃度はフィブロネクチン原繊維のすぐ隣の領域中では低いこともわかった。
そうすると、もし分枝形態形成の間に、フィブロネクチン原繊維の集積がクレフト形成を促進しているなら、フィブロネクチンの機能を阻害してやれば分枝が妨害されるのではないだろうか。抗フィブロネクチン抗体は、実際に唾液腺のクレフト形成と分枝を、投与量に依存して阻害した。また、β1、α5、α6インテグリンに対する抗体も唾液腺の分枝を阻害した。α5β1は、重要なフィブロネクチン受容体だが、α5とα6に対する複合抗体の方が分枝の阻害効率がよかったことから、フィブロネクチンはラミニン(この組織ではα6β1が主な受容体である)と共に分枝に必要らしいことがわかる。
タンパク質の機能が阻害された時に見られる結果と同様、低分子干渉性RNA(siRNA)を使ってフィブロネクチン発現をノックダウンした培養唾液腺でも、クレフト形成がやはり大幅に低下していた。Yamadaらは、次にフィブロネクチンを外来性のものに置き換えて、その影響を調べた。外来性のフィブロネクチンは、siRNA処理を受けた唾液腺の分枝機能を回復できただけでなく、コントロール実験に使われたsiRNA処理をしない培養細胞での分枝も投与量に依存して促進した。クレフト形成が加速された上に、深いクレフトができたのである。他の器官でも同様な結果、すなわちフィブロネクチンはへこみ部分に集積し、フィブロネクチンの機能を阻害すると分枝が阻害され、外来性のフィブロネクチンは分枝を促進するという結果が観察された。
著者らは次に、クレフトになると予想される領域でのカドヘリン濃度が低下しているという以前の観察結果に立ち戻って検討することにし、フィブロネクチンがこういう低下を引き起こすのかどうかを調べた。培養唾液腺上皮細胞を細繊維状のフィブロネクチンで処理すると、局所的な細胞-マトリクス間の接着が誘導され、これらの部位に隣接した領域ではカドヘリンの局在が抑制されていた。つまり、細胞同士の接着は失われると予想され、それにより深いクレフトが形成される可能性が出てくる。また、フィブロネクチンはクレフト形成を担っているばかりでなく、そのコラーゲン調節機能を介してクレフトの維持にも関わっているらしい。こちらの機能はクレフトの安定化に重要であると考えられる。

doi:10.1038/fake559

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