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ニューロン新生における血管内皮増殖因子の関与

Nature Reviews Neuroscience

2004年9月1日

血管内皮増殖因子(VEGF)が、さまざまな方法による海馬でのニューロン新生の誘導に共通する重要な構成要素であることがNature Geneticsに掲載されたCao et al.の論文に示されている。同研究では、このニューロン新生の誘導に、VEGF受容体の1つであるキナーゼ挿入ドメインタンパク質受容体(KDR)が関与していることも実証されている。

哺乳動物の成体の場合、海馬の顆粒細胞下帯は、連続的なニューロン新生が最も活発に見られる部位の1つで、運動、環境エンリッチメントや海馬に依存した課題(例えばモリス水迷路)の実施などのさまざまな操作を通じてニューロン新生率を増進させることができる。これまでの研究では、運動によってニューロン新生が誘導されるプロセスに末梢VEGFがかかわっていることが明らかになっていた。そこでCaoたちは、ラットの海馬で末梢VEGFやその他の増殖因子が産生され、これらの増殖因子に、海馬の活動あるいは環境エンリッチメントによって誘導されたニューロン新生を促進させる効果があるのかどうかを調べた。 (訳注:「環境エンリッチメント」とは、飼育動物に刺激的な環境を提供することを通じて、その動物が、種特有の挙動を見せ、その環境を支配し、あるいは環境中で選択を行えるようにし、その福祉を向上させることを意味する。)

その結果、エンリッチメントされた環境で飼育されたラット、モリス水迷路を使った訓練や試験を受けたラットのいずれの場合も研究対象増殖因子の中でVEGFだけが海馬内での発現が増えた。次に組換えアデノ随伴ウイルスベクターを使って、ラットの海馬内でVEGFを過剰発現させる実験では、ラットの学習検査と記憶検査の成績が上がり、海馬内での血管新生と神経新生が増加した。これに対して、胎盤増殖因子(PGF)を過剰発現させる実験では、血管新生が増加したが、学習検査の成績やニューロン新生には効果が見られなかった。これは、VEGFがニューロン前駆細胞と血管内皮細胞に直接作用するという学説を裏付けている。またCaoたちは、特定の短いヘアピン型RNA(shRNA)を使ってVEGFの発現を抑制することによって、環境エンリッチメントによるニューロン新生の誘導が抑制されることも実証した。

VEGFは、KDRなどいくつかの受容体を介して作用しうる。海馬内でVEGFを過剰発現させておいて、優性ネガティブ変異体KDRを過剰発現させた実験では、VEGFの効果が弱まった。このことは、VEGFがニューロン新生に影響を及ぼす際にKDRが主たるメディエーターとして関与することを示している。

以上の結果は、学習あるいは環境エンリッチメントといった環境効果と海馬におけるニューロン新生の誘導や認知能力の増進とを結びつける1つの共通のメカニズム、すなわちKDRを介したVEGFのシグナル伝達が関係したメカニズムの存在を示唆している。

doi:10.1038/fake526

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