Highlight

失われたものを見つける

Nature Reviews Genetics

2006年1月1日

ヒトゲノムの欠失は数多くの病気において重要な意味を持っているが、欠失の全般的な頻度、欠失部位のパターン、他の多型との相関性といった点は、解明されていない。今回、Nature Geneticsで発表された3つの研究では、1人の人間の場合、平均でユークロマチン領域に少なくとも30〜50個の中規模の欠失があること、そのような欠失は進化の過程で1回だけ起こった可能性が非常に高いこと、そして欠失が、ありふれたSNPと連鎖不平衡にあることが明らかになった。

欠失は、SNPジェノタイピング研究で見落とされることが多い。通常、ヘミ接合性欠失のある人の場合には、存在している対立遺伝子のホモ接合と誤って判定される。しかし、親子の比較をすると、そのように誤った判定結果は、メンデル遺伝に反しているように見える。これと同様に、ホモ接合性欠失も、テクニカルな人為結果と誤解されることが多い。このように矛盾した結果は、これまで見落とされるか、捨て去られていたが、このほど発表されたConrad et al. と McCarroll et al. の研究では、このような矛盾点を利用して、国際ハップマップコンソーシアムのデータから数百個の欠失候補を同定し、PCR法による検証を行った。

アフリカ系の人々の場合、平均で、5 kbを超える欠失が約50個であるのに対して、ヨーロッパ系の人々の場合は、平均で約30個の欠失しかない。この点は、アフリカ系の人々の方が遺伝的多様性が大きい事実と一貫している。これらの欠失領域では、数多くの既知の遺伝子が同定されたが、ゲノム全体での平均から見れば、欠失領域は相対的に遺伝子が少なかった。この点は、欠失に対して負の選択が働いている事実と一貫している。欠失した遺伝子には、免疫や知覚、嗅覚、性ステロイド代謝、薬物応答性の遺伝子が多く、核酸代謝の遺伝子が少なかった。以上の情報からは、遺伝子の種類による遺伝子量と冗長性についての知見が得られるかもしれない。

Hind et al.とMcCarroll et al.の研究では、それぞれ独自に、このような欠失の集団遺伝学的起源を調べている。サラセミアのようなゲノム疾患は、それぞれの患者において独自に反復する大規模な欠失によって起こる。しかし、健常者に遺伝子変異を引き起こす一因となる70 bp〜10 kb(Hind et al. の場合)や1〜745 kb(McCarroll et al. の場合)の規模での欠失は、その近傍のSNPと同じ連鎖不平衡パターンであることが、いずれの研究でも判明している。そのため、ほとんどの欠失は、SNPに似て、進化の過程で1回だけ起こったものであり、同じ欠失多型を持つ人々は、共通の祖先からそれを受け継いでいる、という結論がそれぞれの研究で示されている。

人間における表現型の多様化と病気に対する欠失の寄与度についての解析は行われていないが、その背後にある遺伝子型の多様化の規模については、今回の一連の研究によって解明が進んだ。さらに、連鎖不平衡パターンが共通であることから、SNPジェノタイピングデータには、SNP近傍の欠失に関する間接情報も含まれていることがわかった。この情報を解き明かすことで、病気や多様性、進化に関する理解が深まることだろう。

doi:10.1038/fake500

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度