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RNAiに懐疑的な研究者を黙らせる研究成果

Nature Reviews Genetics

2004年12月1日

RNA干渉法(RNAi)が病気の治療法として有望だという話は誰もが耳にしている。でも実際のところ、RNAiによる治療の実現には、どれくらい近づいているのだろうか?このほどVornlocherたちの研究成果がNatureに発表されたが、これによって、遺伝子活性を選択的に改変して、臨床現場に役立てるという目標に一歩近づいたようだ。

Vornlocherたちは、in vivoで病気の治療に役立つアポリポタンパク質B(APOB)をコードする内在性遺伝子のサイレンシングを実証した。APOBは、低密度リポタンパク質(LDL)の生成にとって極めて重要で、したがって広範囲の心臓血管疾患に関係していると考えられている。これまでにもin vivoでのRNAiの実証に成功した事例はあったが、内在性遺伝子を標的としたサイレンシングでない実験モデルであったり、人間の治療には応用できないようなRNA投与法が用いられていた。これに対して、Vornlocherたちの研究では、特定のRNAと相補的な配列によってRNA干渉を行う低分子干渉性RNA(siRNA)分子をマウスの尾静脈から投与した。この投与経路であれば、人間の患者にも容易に応用することができる。

遺伝子治療もアンチセンス法も送達の問題で停滞を余儀なくされたが、RNAiにも同じ問題があった。このためsiRNAを標的組織に到達させようとして、ウイルスベクター等さまざまな送達手段が用いられてきた。今回のVornlocherたちの研究では、化学修飾によってsiRNA分子をより薬剤に近づけ、体内で安定化するようにして、細胞に取り込まれる確率を高めた。特にsiRNAの3’末端にコレステロールを結合させたことで、siRNAのin vivoでの薬理学的特性(例えば特定の細胞への送達や半減期)が著しく改善された。このような改善により、化学修飾実験の積み重ねでsiRNAベースの治療法実現の見通しが明るくなるとする学説が裏付けられる。

Vornlocherたちは、通常の餌を与えられたマウスにApoBを標的とするコレステロール修飾型siRNAを注射して、そのin vivoでの効果を調べた。その時にAPOBの重要発現部位である肝臓と空腸での標的mRNAの発現レベルも調べた。いずれの組織においても修飾型siRNAによってApoBのmRNAの発現量は大きく減少した。この結果は、APOBタンパク質の発現量の低下から判断された。また、生理的レベルでも好ましい効果が確認された。siRNAの注入により、高密度リポタンパク質の発現量が25%減り、低密度リポタンパク質は40%も減ったのだった。

RNAi研究にもたれている重大な懸念の一つは、観察結果が非特異的な「標的以外のタンパク質との相互関係による効果」またはインターフェロン応答による可能性があるという点だ。Vornlocherたちは、ApoBのmRNAの異なる領域を標的とする2種類のApoB特異的siRNAを使った実験を行い、いずれの場合にも類似の効果を得て、この可能性を排除した。さらに肝臓と空腸において治療用siRNAの発現レベルに匹敵するレベルで発現させた対照siRNAでは効果が得られなかった。そしてVornlocherたちは、APOB分解生成物の解析を行って、RNAiの作用機序により上記の実験結果が得られたことを実証した。

今回、RNAiによるsiRNAを用いたin vivoでの内在性遺伝子サイレンシングの実証に初めて成功することが確実となり、加えて、人間にも容易に応用できるような投与経路が用いられたことで、RNAiは、研究手段としても治療法候補としても、ますます注目を集めそうだ。

doi:10.1038/fake488

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