Highlight

見事な大作

Nature Reviews Genetics

2003年2月1日

ヒトゲノム概要配列が発表された時、それは「青写真」だとされた。しかしいかなる設計プランでも同じことだが、計画を実施されていく様子を明らかにすることは大きな課題である。これがまさに機能ゲノム科学の核心部分なのだ。このほど発表されたKamath et al.の論文は、線虫の系統的なRNAi解析という大作であり、機能ゲノム科学に対する重要な貢献と言える。この論文では、数多くの線虫遺伝子の機能が明らかにされているだけでなく、線虫のゲノム構造とその進化に関する重要な情報も示されているのだ。 できるだけ多くの線虫遺伝子について、RNAi表現型を明らかにするため、Kamath et al.の研究では、16,757種類の細菌の菌株(現在推定されている全ての線虫のオープンリーディングフレーム[ORF]の86%に匹敵する)のライブラリを構築した。個々の菌株は、個々の線虫遺伝子に対応した二本鎖RNA(dsRNA)を発現している。(通常は大腸菌を餌とする)線虫にこれらの細菌を与えたところ、dsRNAは体内に取り込まれ、それまで内在していた遺伝子は、塩基配列特異的に破壊された。そして表現型のスコアが1つ1つ記録され、解析対象となったORFの10.3%には一貫して表現型が見つかった。Kamath et al.の論文では、それらを生育不能(Nonv)、成長異常(Gro)、後胚成長(Vpep)の各表現型に分類した。Nonvには、数多くの一般的な真核生物の遺伝子が含まれ、例えば基礎的な細胞機構にとって極めて重要な成分をコードする遺伝子であった。これとは対照的にVpepに分類される遺伝子のほとんどは、動物に特異的な遺伝子である可能性が高く、その遺伝子産物は挙動や体形といったプロセスに影響する。 それぞれの区分における遺伝子のゲノム分布を詳しく見てみると、機能の似た遺伝子はゲノムの大きなドメインに共に局在化し、同時転写する傾向があることが判明した。このような規模の集まり(クラスター)を形成しているということは、従来提唱されていたオープンループのクロマチンとは異なる機構が大規模な同時転写調節に関与していることを示している。 Kamath et al.では、X染色体に関しても興味深い知見が得られた。X染色体にはNonv遺伝子が少なく、シグナル伝達経路や転写因子の成分をコードした遺伝子が多かった。ここでは、常染色体上の遺伝子と比べて性染色体上の遺伝子には大きく異なる選択圧が働いていることが示唆されている。 別の2つの研究論文は、同じ方法を用いて、より具体的な生物学上の論点に取り組んだ。Ashrafi et al.では、同じRNAiライブラリを使って、脂肪分の蓄積と移動を調節する遺伝子を探索した。体内での貯蔵脂肪を減らす遺伝子が305種類、増やす遺伝子が112種類あるが、哺乳動物に相同遺伝子のあるものが同定され、そのいくつかは既に脂肪代謝に関係していることが判明している。線虫の脂肪調節遺伝子は3つの主要な経路(insulin、serotonin、tubby)に該当しており、このことは脂肪代謝が後生動物に保存されており、線虫がヒトの脂肪代謝異常のモデルとして利用しうることを示している。 Nature Geneticsに掲載されたLee et al.の論文では、遺伝子を不活性化させると、線虫の寿命が長くなるかどうかについて研究が行われた。この論文ではRNAi検査に引き続いて古典的な遺伝学的手法によるスクリーニング調査を行い、これらの結果を総合してミトコンドリア機能や特定の代謝機能が損なわれている線虫は寿命が長くなる傾向があることが判明した。 Kamath et al.の論文では、重要な生物学的知見のみならず、何度でも利用できる細菌のRNAiライブラリという研究者にとって重要な資源が提供された。Ashrafi et al.やLee et al.に示されたような検査報告論文は、これからも数多く発表されることが確実だ。その結果、個別的な生体過程について解明が進むだろう。RNAi技術が進歩を続け、哺乳動物の細胞についても同じような系統的検査法を実施できるようになることが期待される。

doi:10.1038/fake471

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