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二十日鼠と...トラフグ

Nature Reviews Genetics

2002年9月1日

東南アジアに生息する小型の魚であるトラフグ(Fugu rubripes)をゲノム研究におけるモデル脊椎動物とすることが、今から10年前に提案された。トラフグのゲノムが小型であることから、脊椎動物のゲノムの進化を解明し、複雑なゲノムの機能を研究する上で役立つと考えられたからだ。そして今、Aparicio et al.が、トラフグゲノム全体の約95%について塩基配列を決定し、論文を発表した。この論文では、トラフグのゲノムが小型である原因メカニズムが示唆されている。またヒトとトラフグのゲノムを比較した結果、ゲノムとタンパク質の進化についても解明が進んだ。 トラフグゲノムは全長が365 Mbで、ヒトゲノムの8分の1に過ぎない。今回発表されたトラフグゲノムの配列決定研究では、ショットガン法を用いることで精度は各ヌクレオチドが6回読まれたと相当するレベルである。トラフグゲノムがヒトゲノムよりも短いのは、主として遺伝子間領域とイントロンが短いことによるが、これらの領域では欠失が頻繁に起こっていたと考えられる。実験データがないため、トラフグゲノムの注釈付けは相同性に基づいて行われ、既に約33,000個の遺伝子が推定されている。これはヒトゲノムについて推定されている遺伝子の数とも非常に近い。トラフグゲノムにおける遺伝子密度は、ヒトの場合と同じように領域によって高低がある。またトラフグの遺伝子はイントロンが短いため、ほとんどの場合で、トラフグの遺伝子がヒトゲノム上のオーソロガス遺伝子よりも短い。ただしイントロン-エキソン構造は、ほとんどの遺伝子において保存されている。これに対してトラフグゲノムには大きいイントロンをもつ「巨大な」遺伝子もいくつか見つかっている。この遺伝子についてAparicioらは、トラフグがこれまでに得たDNAと失ったDNAとのバランスを保つ上、すなわちゲノムの進化の上で何らかの役割を果たしているのではないかと推測している。トラフグとヒトのゲノムでは数多くの遺伝子領域が共通に保存されているが、遺伝子の配列順はかなり入れ替わっている。 トラフグとヒトのプロテオームでの相違点は、生理の相違を反映しているだけでなく、T細胞性免疫系のようにヒトにおいて急速に進化している系の存在を浮き彫りにしている。トラフグとヒトのプロテオームを比べた場合、確かに相違点よりも類似点の方が多いが、それでもヒトプロテオームの約25%についてはヒトのタンパク質に相当するものがトラフグには見られない。 こうしてトラフグはゲノム研究におけるモデル生物としての適性があることが判明したわけだが、同時に今回のトラフグの全ゲノム塩基配列解析研究によって脊椎動物のゲノムとプロテオームの進化に関する膨大な情報が得られた。 トラフグゲノムは、ヒトゲノムに続いて2番目に塩基配列が一般公開された脊椎動物ゲノムだが、物理地図を使わずに塩基配列決定された最も大きなゲノムだ。ところで物理地図は、ゲノム配列決定のためだけに役立つのではなく、実験モデルを構築する際の貴重な情報源にもなる。マウスについてはゲノム塩基配列決定が完了していないが、Gregory et al.はマウスの物理地図を作成したことを報告した。 Gregory et al.は、重複するBACクローンのコンティグ(平均長さ約9.3 Mb)296個をアセンブリングし、それによって全長2.9 Gbと推定されるマウスゲノムをほぼ完全にカバーした。そしてマウスのBAC地図の97%についてヒトゲノムとのアラインメントを行ったところ、マウスのBACクローンの88%に対応するものがヒトゲノムにも見つかった。Gregory et al.は、SSLPと放射能ハイブリッドデータを使って、203個のBACクローンについて染色体上の位置を決定し、マウスゲノム研究にとって貴重な情報源を作り出した。2005年に予定されているマウスゲノムの塩基配列決定の完了前にも、この物理地図の解析やヒトゲノムとのアラインメントによって重要な知見が得られることだろう。

doi:10.1038/fake467

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