動物学:野生チンパンジーの母子間の愛着スタイルは人間に似ているかもしれない
Nature Human Behaviour
2025年5月13日
野生のチンパンジーの母親と乳児の絆は、人間で観察される安心型と不安回避型のパターンに似ているかもしれないことを報告する論文が、Nature Human Behaviour にオープンアクセスで掲載される。この研究結果は、チンパンジーの母親と乳児の愛着についての理解を深めるものである。
愛着理論は当初、人間の乳児と養育者の関係を理解するために開発されたもので、早期の絆体験が心理的発達や社会的相互作用に影響を与えることを示唆している。構造化された一貫性のある絆は組織化された愛着と考えられるが、非組織的(無秩序型)な愛着は、行動がランダムまたは矛盾しており、乳児が養育者を恐れることが典型的である。無秩序な愛着は、文化圏を問わず、人間の乳児の約23%に観察されている。愛着理論は現代の子育てに影響を与えているが、野生の霊長類以外の動物におけるこれらの行動についてはほとんど知られていない。
Eléonore Rollandら(マックス・プランク進化人類学研究所〔ドイツ〕)は、コートジボワールのタイ国立公園(Taï National Park)で、50頭の野生のチンパンジーの母子を3,795時間にわたって観察した。脅威的な出来事(他の個体による攻撃や威嚇)に反応する30頭のチンパンジー(0 –10歳)を観察したところ、乳児から母親への攻撃など、無秩序な愛着を反映するような行動の証拠は見つからなかった。しかし、18頭の未熟なチンパンジーが、自分に向けられたものではない脅迫的な出来事に反応する様子を観察したところ、Rollandらは、安心を求めて養育者に接近するなど、安心型および不安回避型な愛着パターンの証拠を発見した。より具体的には、未熟なチンパンジーは威嚇的な出来事の際、鳴きながら母親に近づく傾向があるが、この反応は年齢とともに減少することがわかった。78例中75例では、母親が近づいたかどうかにかかわらず、威嚇の後に鳴くのを止めた。しかし、母親が近づいた場合はすべて鳴き止んだ。
これらの知見は、組織化された愛着のある種の特徴には深い進化の歴史があり、無秩序な愛着パターンは環境要因によって形成されることを示唆している。著者らはサンプル数が少ないことを指摘しているが、今後の研究では、飼育下の類人猿と人間の無秩序な愛着の有病率が比較的高いのは、このような環境要因の影響かもしれない。
- Article
- Open access
- Published: 12 May 2025
Rolland, E., Nodé-Langlois, O., Tkaczynski, P.J. et al. Evidence of organized but not disorganized attachment in wild Western chimpanzee offspring (Pan troglodytes verus). Nat Hum Behav (2025). https://doi.org/10.1038/s41562-025-02176-8
doi:10.1038/s41562-025-02176-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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