2健康:ウイルスを媒介しない蚊は2030年代の気候変動下では有効
Nature Climate Change
2023年8月4日
デングウイルスなどの蚊媒介性ウイルスの伝播を阻止するボルバキア属細菌Wolbachia pipientisのwMel株は、2030年代に予想される熱波シナリオの下でも、その有効性が持続する可能性の高いことがモデル化研究によって明らかになった。このことを報告する論文が、Nature Climate Changeに掲載される。しかし、それより長期の温暖化シナリオの下で有効性が保たれるかどうかは確かでない。
蚊媒介性疾患(マラリア、デング熱、ジカ熱など)には、数百万人が感染している。その流行域と有病者数は気温の影響を受けるため、将来の気候条件下ではより大きなリスクとなる可能性がある。これらの疾患については、野生の蚊を、Wolbachia pipientis(さまざまな蚊媒介性疾患病原体の感染と伝播を阻止する細菌種)を保有する蚊に置き換えるという有望な生物的防除技術が存在する。既にボルバキア属細菌の複数の株が、さまざまなネッタイシマカ種に導入され、主にwMel株を用いて、中南米諸国、アジア、オセアニアで試験が行われている。しかし、wMel株は、熱ストレス下で弱体化する可能性がある。
今回、Váleri Vásquezらは、蚊の個体数動態モデルを、実験室環境において気温がwMel株に及ぼす影響に関するデータと将来の熱波の強度予測と統合し、wMel株の野外実験が成功しているオーストラリアのケアンズとベトナムのニャチャン市において温暖化がwMel株に及ぼす影響可能性を調べた。Vásquezらは、wMel株を使った生物的防除技術が、近い将来(2030年代)に予想される気候変動に対しては概してロバストであると結論付けているが、今回の研究では、wMel株を使った技術が、高温域での気温の変動と気候変動の長期化の下で脆弱性を示す可能性も明らかになった。Vásquezらは、2050年代の熱波(平均日数24日)が、2030年代に予想される熱波(平均日数9.7日)に比べてより長期化する可能性があり、これがwMel株に悪影響を及ぼすと予測している。
Vásquezらは、温暖化が進み、熱波の発生頻度が高くなるシナリオの下では、wMel株の有効性が低下する可能性があるという見方を示した上で、今後の研究でwMel株の閾値を解明する必要があり、蚊媒介性疾患に対しては、熱耐性に優れた方法を開発する必要があると結論付けている。
doi:10.1038/s41558-023-01746-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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