遺伝学:個人の特定が可能なヒトDNAが環境試料中に見つかる
Nature Ecology & Evolution
2023年5月16日
個人の特定が可能なヒトの遺伝物質が、環境DNA(eDNA)の採取に際して意図せず収集される場合があることを示唆する論文が、Nature Ecology & Evolutionに掲載される。今回の知見は、eDNAの収集を巡って起き得る倫理上およびプライバシー上の懸念を提起する。
eDNAの採取は、陸上や水中の任意の生態系に広く分布している遊離の組織断片や生体物質から遺伝情報を収集する一般的な技術だ。こうした試料は、野生個体群や侵入種のモニタリング、過去の環境の推測、そして重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)などのヒト病原体の排水試料スクリーニングに使用することができる。
David Duffy、Liam Whitmoreらは、eDNA塩基配列解読の意図せぬ結果として、ヒトのゲノム情報が収集される可能性があることを示唆し、これをHGB(human genetic bycatch;ヒト遺伝子の混獲)と命名した。著者らは、野生生物や病原体に関する自らのeDNAプロジェクトの一環として採取された試料を分析し、その試料中にヒトの遺伝物質を見いだした。そして、HGBのレベルを定量化するために、ヒト被験者の使用に関する倫理的承認を得た上で、追加的な試料の分析を行った。用いた試料は、ヒトの居住地から遠い場所と近い場所で得られたさまざまな環境水試料、砂浜に残されたヒトの足跡、そしてヒトのいる部屋といない部屋の空気に由来するものだ。分析の結果、野外eDNA試料の全てにHGBが見いだされた。収集法によっては、祖先や疾患感受性などの属性の判定を可能にするほど質の高い試料もあったという。
著者らは、個人の特定が可能な情報を収集する他の種類の研究が課されるような厳密な監視をこれまで必ずしも受けてこなかったeDNA研究に関して、HGBの可能性が倫理上およびプライバシー上の懸念を生じると主張している。こうした懸念は、それらの知見の潜在的な応用法と並んで、Natalie Ramによる関連のNews & Viewsで検討されている。Ramは、「遺伝子データを収集、分析、使用するための新たなツールは、それがどう利用または悪用される可能性があるのか、そして悪用のリスクがどう最小化され得るのかについて、倫理的および法的な検討を慎重に行うことが求められる。Whitmoreらは何が可能かを示したのであって、ここからは思慮深く対応するときだ」と論じている。
doi:10.1038/s41559-023-02056-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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