Research Press Release

神経科学:マウスの心臓をドキドキさせると不安様行動が強く現われる可能性がある

Nature

2023年3月2日

マウスの実験で、心拍数の増加が不安関連行動の亢進と関連していることが明らかになった。この研究知見は、身体からのシグナルが、不安や恐怖などの情動に関連する感情的行動にどのように影響するかを示している。今回の研究について報告する論文が、Natureに掲載される。

情動の状態は、身体の機能の仕方に影響を及ぼす。例えば、不安や恐怖によって心拍が速くなることがある。しかし、その逆も正しいのか、つまり心拍数の増加が不安反応や恐怖反応を誘発するのかという疑問に対しては答えが出ていない。心拍数が情動に及ぼす影響を評価するうえで1つの大きな課題となっているのが、副作用を引き起こしたり交絡因子を混入させたりせずに心拍数を精密に制御するための適切な研究用ツールがないことだ。

今回、Karl Deisserothたちは、光信号を用いて心筋細胞を標的とする非侵襲的な光学ペースメーカーを開発し、マウスの心拍数を基準心拍数(毎分660回)から毎分900回に増加させられるようにした。マウスを使った実験で、心拍数を光学的に増加させたところ、不安様行動と恐怖が強く現われるようになったが、そうなったのは潜在的に危険な環境におかれたマウスだけだった。Deisserothたちは、こうした影響が現れることの背景にある機構を調べるため、脳のスキャン画像を分析して、脳の活動の変化を調べた。その結果、心拍数が増加した時に不安様行動や不安そうな行動の誘発を仲介する脳領域の候補として、後部島皮質が特定された。この脳領域は、全身からのシグナルを受け取って処理する機能を果たしている。さらに、光学的方法で心臓を人工的に拍動させると誘発される不安様行動が、後部島皮質の抑制によって減少することも分かった。

同時掲載のYoni CoudecとAnna BeyelerのNews & Viewsでは、「今回の研究では、心拍数が不安に影響することがあり、他の情動行動にも影響する可能性が非常に高いことが、少なくともマウスの場合に明確に実証された」とされている。心拍数の増加が脳や感情的行動に及ぼす長期的な影響を特定し、今回の知見のトランスレーショナルな応用や治療への応用の可能性を調べるために、さらなる研究が必要とされる。

doi:10.1038/s41586-023-05748-8

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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