古生物学:ヨーロッパにおいて、有史以前の猟犬は初期人類のそばで暮らしていた可能性
Scientific Reports
2021年7月30日
ジョージアのドマニシで最近発見された有史以前の猟犬の遺骸が、ヨーロッパに猟犬が到来したことを示す最古の証拠なのではないかという知見を示した論文が、Scientific Reports に掲載される。この知見は、この猟犬が、同じ場所で発見された初期人類のそばで生活していた可能性を示唆している。
今回、Saverio Bartolini-Lucentiたちの研究チームは、177万~176万年前と年代決定された大型犬の遺骸を分析した。この遺骸の標本は、ヨーロッパに近い地域での最古の猟犬の事例で、猟犬がアジアからヨーロッパとアフリカへと広範囲にわたる移動をした更新世カラブリアン期(180万年前~80万年前)より古いものとされる。
Bartolini-Lucentiたちは、このドマニシ犬が、東アジアに起源を持っていて現生アフリカ猟犬の祖先と思われるユーラシア猟犬のCanis(Xenocion)lycaonoides種に分類できることを示唆する、独特な歯の構造を持つことを突き止めた。また、このドマニシ犬の歯の特徴は、肉食性の強いこと(食餌の70%以上が肉であること)が明らかになっている同時代の他のCanid(野生の犬に似た動物種)や現代のCanidとも類似している。これらのCanidの歯の特徴としては、雑食動物よりも幅が狭く、短い第3小臼歯や大きく鋭利な裂肉歯(顎の中央にあって食物をせん断する歯)などがある。しかし、ドマニシ犬の歯には、著しい摩耗が認められなかったため、大型の若齢成体であることが示唆され、体重は約30キログラムと推定された。
これまでにドマニシで発見されたヒトの遺骸は、約180万年前に初期人類がアフリカから移動したことを示す最も古い直接証拠となっているため、今回の研究結果は、ドマニシで猟犬が初期人類のそばで生活していたことを示唆している。ユーラシア猟犬はその後、アフリカ、アジア、ヨーロッパに分散し、化石記録上、最も広く分布した肉食動物の1つとなった可能性がある。
doi:10.1038/s41598-021-92818-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
気候:2026年ワールドカップの開催地は、サッカー選手に熱ストレスのリスクをもたらすScientific Reports
-
古生物学:糞便の科学捜査が恐竜の台頭を記録するNature
-
健康:イングランドにおけるカロリー表示の効果の評価Nature Human Behaviour
-
生物学:全ヒト細胞アトラスの作成Nature
-
天文学:近くの恒星を周回する若いトランジット惑星が発見されるNature
-
気候:20世紀の海水温を再考するNature