保全:パンダの保全しても大型肉食動物は守られない
Nature Ecology & Evolution
2020年8月4日
特にジャイアントパンダの保全を目的として設定された中国の保護区の大部分で、ヒョウ、ユキヒョウ、オオカミ、およびドール(別名アカオオカミ)がほぼ姿を消してしまっていることを明らかにした論文が、今週、Nature Ecology & Evolution に掲載される。
ジャイアントパンダの保全は、保全の象徴的なサクセスストーリーである。中国では、1960年代に最初のジャイアントパンダ保護区が設定された後、この種は国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストの「絶滅危惧種(絶滅危惧IB類)」から「危急種(絶滅危惧II類)」に引き下げられた。しかし、こうした保全措置が、保護区内でさらに広範囲の生物多様性にも有益であったのかは不明である。
今回、Sheng Liたちの研究チームは、中国の73か所の保護地域(66か所のジャイアントパンダ自然保護区を含む)で得られた4種の大型肉食動物の存否に関するデータを分析した。過去の基準調査データを最近のカメラトラップ調査(2008~2018年に実施)の結果と比較したところ、4種はいずれも、50~60年前に初めて保護区が設定されて以降、これら保護区のかなりの部分で姿を消していることが明らかになった。保護区の81%でヒョウ(Panthera pardus)が消え去り、38%でユキヒョウ(P. uncia)が、77%でオオカミ(Canis lupus)が、95%でドール(Cuon alpinus)が消滅していた。
こうした消滅には、森林伐採や密猟、病気などの要因が全て関与していると考えられる。Liたちは、保護区内の生物多様性のさらに大きな部分を保全するには、保全戦略の幅を広げる必要があると主張している。
doi:10.1038/s41559-020-1260-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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