【がん】膵臓がんを発症すると体組織の消耗が起こる機構
Nature
2018年6月21日
膵臓がんの患者が経験する脂肪組織と骨格筋の消耗は、膵臓の外分泌機能の変化によって生じる可能性があることを示す論文が、今週掲載される。
細胞代謝の変化は、さまざまな種類のがんの症状となっている。膵臓がんは特に末梢組織の消耗と関連している。こうした末梢組織の消耗は、代謝症候群の一種で、生活の質を低下させ、さらには患者の生存率を低下させると考えられている。組織の消耗には、数々の要因があるが、その基盤となる機構を正確に突き止めることは難しい。
今回、Matthew Vander Heiden、Brian Wolpinたちの研究グループは、膵臓がんのマウスモデルを用いて、脂肪組織と骨格筋の重量が、がんの発生初期に減少することを明らかにした。こうした末梢組織の消耗は、膵臓で腫瘍が増殖した場合だけ起こり、その他の臓器の場合には起こらないことも判明した。さらに研究グループは、膵臓の外分泌機能の低下によって脂肪細胞の減少が引き起こされており、膵酵素の補充によって末梢組織の消耗は減衰するが、マウスの生存率は改善しないことを明らかにした。
一方、782人の膵臓がん患者のコホートの場合、その診断時に65%で骨格筋の消耗の証拠が認められた。しかし、脂肪組織と骨格筋の消耗と患者の生存率の低下とは関連していなかった。従って、膵臓がんの初期に見られる末梢組織の消耗は、膵臓がんの初期兆候であるかもしれないが、必ずしも生存日数の減少につながるとは限らないことが分かった。
doi:10.1038/s41586-018-0235-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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