【環境衛生】クリーンな船舶用燃料の使用による小児喘息の低減
Nature Communications
2018年2月7日
硫黄分の少ないクリーンな船舶用燃料を使用すると、船舶による大気汚染に関連した小児喘息の症例数が半減することを新たな分析研究によって明らかにした論文が、今週掲載される。ただし、この効果は気候変動とトレードオフの関係にあり、大気中の硫酸エーロゾルが減ると放射冷却効果がなくなることから、大気汚染対策と気候変動緩和策を連動させるべきことを示唆している。
船舶から排出される硫酸エーロゾルは、人間の健康と陸上・水中環境に有害だが、その放射効果によって気候の寒冷化をもたらしている。国際海事機関は、2020年に海運に使用される燃料油の硫黄分を0.5%とする新しい規制を提案した。その結果、健康上の利益が増進する反面、船舶からの排出物による放射冷却効果は低下すると考えられている。
今回、James Corbettたちの研究グループは、2020年に船舶用燃料の硫黄分の規制値が引き下げられることによる地域住民の健康に対する利益と気候に対する影響を全球レベルで評価した。Corbettたちは、高分解能の排出物目録、統合大気モデル、および健康に関するリスク関数を組み合わせて、クリーンな燃料の使用によって全世界の船舶関連の若年死症例が年間403,300例から266,300例へ減少する(34%減)という予測を示している。また、船舶による大気汚染に関連した小児喘息の症例数も年間1400万例から640万例へ減少する(54%減)と予測している。
ところが、このクリーンな燃料基準は健康に有益な影響をもたらす反面、エーロゾルによる放射冷却効果が80%低下する。そのため、国際的な政策的取り組みにおいて温室効果ガスの排出削減と大気汚染の抑制を合わせて考慮する必要があるとCorbettたちは考えている。
doi:10.1038/s41467-017-02774-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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