【気候科学】棚氷の融解が南極底層水の形成を抑制することをアザラシが教えてくれた
Nature Communications
2016年8月24日
ゾウアザラシに機器を取り付けて観測が行われ、全球的な熱循環にとって不可欠な南極の高密度底層水の形成が、南極棚氷の融解による淡水の流入によって抑制されることが明らかになった。この新知見は、今後の気候温暖化によって南極棚氷の融解が進むことで、底層水が生成されなくなる恐れのあることを示唆している。研究の詳細を報告する論文が、今週掲載される。
南極を取り巻く海は冬になると凍結するため、海氷マトリックスが脱塩して、極めて高密度の表層水が形成する。この表層水は、そのうちに沈降して底層水を形成するようになり、地球の深層海洋循環を駆動する。高密度水の大半は、海氷の形成が特に活発に起こるポリニヤシステムで生成するが、ポリニヤシステムは、わずかな数の重要地域にしか存在していない。東南極のプリッツ湾には3つのポリニヤシステムがあるが、そこで生成される表層水の密度が予想より低いことが入手可能なデータによって示唆されており、全球的に重要な底層水に対するプリッツ湾地域の寄与に疑いが生じている。あいにくプリッツ湾地域については、特に人間が立ち入ることのできない冬季月間のデータが少ない。
今回、Guy Williamsたちは、現地に到達できないという問題に取り組むため、この地域に生息するゾウアザラシを利用した。Williamsたちは、小型機器をゾウアザラシに取り付けて、1年を通じてプリッツ湾地域全体で重要な海水温と塩分のデータを集めることができた。また、Williamsたちは、プリッツ湾のポリニヤで高密度の表層水が生成されるが、その密度が、周辺の棚氷の融解による淡水の流入によって大きく低下していることを明らかにした。
Williamsたちは、気候温暖化によって周辺地域の棚氷の融解が増えると、重要な高密度水の生成がさらに抑制される可能性があるという考えを提唱している。
doi:10.1038/ncomms12577
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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